「ハックション!」
「・・・」
「ハックション!ハックション!」
「・・・」
「ハックション!ハックション!ハック、」

「真田、うるさいですよ」


真田の事ばかり気にかけていたものだから、背後からいきなり柳生くんの声がしてわたしは飛び上がりそうになった。
真田は不満そうな顔で振り返る。


「柳生。お前のせいでくしゃみが止まってしまったではないか!」
「良かったではないですか。私たちは大迷惑です」


柳生くんは本当に迷惑そうに顔を顰めた後、「ねえさん」と、わたしに話を振ってきた。


「え!わたしはそんな・・・!」
「すまないが。ティッシュを持っていないか」
「あるけど・・・」
「すまん、恵んでくれ」
「いいよ。はい、どうぞ」


机の中からティッシュを箱ごと出したわたしを見て、真田と柳生くんは驚いていた。
冬って無駄に鼻水が出るから、ただ常備しているだけなんだけど・・・何かおかしかっただろうか。


「いつも持っているのですか・・・?」
「え?ティッシュを?」
「ああ、箱ごとだ」
「冬と、風邪引いてる時だけだよ。いつでも言ってね。まだあるから」


机の中から更にもう一つティッシュ箱を取り出すと、柳生くんはおかしそうに笑った。真田は顔を顰めている。
やっぱり、ティッシュを箱のまま持ってるのって変なのかな・・・。


「真田、頼もしいじゃないですか」
「・・・ああ、そうだな」


真田は数枚取って豪快に鼻をかんだ。
そして、何か言いたそうな顔をして、ティッシュ箱をわたしの方に押し戻した。
女らしくないとでも言いたいんだろうか。
でも女だって箱ティッシュくらい使う。だから注意できないでいるのかもしれない。


「ありがとう。助かった」
「いえいえ。真田、風邪?」
「ああ・・・我ながらたるんどる!」
「まったくです」
「や、柳生くん!」


柳生くんは真顔で、うんうんと頷いている。
テニス部、厳しすぎるよ・・・!


「真田だって人間なんだから、風邪くらい引くよ!」
「しかしこんな時期に引くなんて・・・」
「たるんどる!」
「ええ、そうですね。先週切原くんに怒鳴ったばかりですしね」


人に注意した後なら、柳生くんが言うのも仕方がない気がする。


「無理しないでね?」
「このくらい、どうって事ない」


とは言ったものの・・・















「はぁっ・・・」
「真田・・・大丈夫?」


なんか吐息がエロいけど。
わたしは心配になって隣から顔を覗き込んで、愕然とした。


「ちょっと・・・!顔真っ赤だよ!」
「む・・・へ、平気だ・・・」
「その顔は絶対平気じゃない・・・」


真田は大丈夫だという事を見せ付けたかったのか、薄ら笑いを浮かべた。怖いよ!
汗が顎を伝い、だらだらと教科書に垂れていく。


「保健室行こう?一緒に行くから」
「平気だと言っ・・・くっ」
「ちょっと!?」


わたしは授業中だという事も忘れて、真田の顔をこっちに向かせるように強く引っ張って、額に手を当てた。
ひどく具合の悪そうな顔。額には汗が滲んでいるどころかだらだらと垂れているし、これは保健室行き決定だ。
何より、保健委員として見逃すわけにはいかない!


「先生!真田が!」
「やめろと・・・言ってるだろう・・・」
「説得力ゼロだよ・・・」


結局、真田の手を引いて保健室へと向かう事になった。
普段の真田なら手を引く事について、文句の一つでも言いそうだが、真田は大人しく後ろを付いてきた。


「真田、平気?肩貸す?」
「平気だと言ったのに・・・お前は・・・」
「意地張りすぎ!なんだったらその切原くんにどれだけ具合悪かったか説明してあげるから」
「みっともない事を・・・するな」


真田が少しふらつく。その拍子に壁に背を預けて、座り込んでしまった。
わたしも一緒に引っ張られて、屈む体勢になる。


「もうちょっとだよ?」
「・・・ああ」


起き上がろうとしているのがわかったから、わたしは真田の腕を強く引っ張った。


「わっ!」


その拍子に真田が倒れこんでくる。
わたしは真田の体重を支えきれず、反対側の壁に背中を打ちつけた。


「いたた・・・」
「すまん・・・」
「わたしは大丈夫。真田は?」
「俺は最初から・・・」
「はいはい。平気なんでしょ?」
「そうだ・・・」


真田は離れようとしない。わたしにぎゅっと抱きついたまま微動だにしなかった。
試しに背中をポンポンと軽く叩いてみても、動かない。


「真田!?」
「・・・大声を出すな。心配しなくても死んどらん」
「良かった・・・」
「少し、このまま」
「う、うん・・・」


真田は抱きしめる手に力を込めた。
このまま、って言われても・・・恥ずかしくて死にそうなんだけど!
真田の熱い息が耳元に当たって、わたしまで顔が赤くなってしまう。
真田は、すがりつくようにわたしの背中を抱きしめていた。


「・・・真田、本当に平気?」
「しつこいぞ・・・俺は・・・ッ」


真田の体が力を失って、床に座り込んでしまう。
体を引っ張られて、わたしも一緒に座った。


「・・・真田、ここで待てる?」
「何だと・・・」


かの皇帝真田が、こんな状態になるなんて、やっぱり尋常じゃない。
ひどい熱だし、何かの病気かもしれない。
ちんたら歩いてる場合じゃないと思い、わたしは腰をあげようとした。


「保健室の先生呼んでくるから・・・っ!?」


真田はわたしの頭を掻き抱くように攫った。
そして、わたしに口付けた。
頭と肩を強く抱きしめられて、身動きが取れない。
少しして唇を離すと、真田は、わたしの体をひょいと抱き上げ、膝の上に乗せた。


「さ、真田・・・?」


次は背中を強く引っ張られ、唇を重ねられた。
元気がない舌がぬめぬめと動いて、口内を犯していく。
真田の大きな手がシャツの中に入って、背中を這い回っていた。
ブラのホックを見つけると、もどかしそうにパチンと外される。

わたしは真田のキスに酔っていたが、下着を剥ぎ取ろうとしている事に気付いて慌てた。


「ちょちょちょ!真田!何してるの!」
「・・・ダメか・・・?」
「ぐぅっ・・・」


真田があまりに色っぽい目で見つめるものだから、わたしは一瞬許容しそうになった。
でも、ここは学校。しかも授業中だ。ぶんぶんと頭を横に振って、我に返るように努める。


「ダメに決まってるよ!」
「・・・頼む」
「えっ・・・?あっ」


いつの間にか真田はワンピースのチャックを下ろして、シャツを外に出しやすいようにしていた。
シャツを前側からたくしあげ、下着を上にずらされる。
わたしは僅かな刺激に声をあげてしまった事を後悔した。
真田の目の色が変わってしまった。


「さ、真田ぁっ」
「声を出すな・・・」
「んっ・・・」


無茶言わないで!わたしは泣きそうだった。
真田はわたしの胸に唇を寄せて、突起を舐めたり引っ張ったりしている。
何度も言うけど、ここ学校!しかも廊下!しかも授業中!


「真田、ダメだってば。ここっ・・・んっ」
「ここが・・・いいのか?」
「ちがぁ・・・あっ」


真田は完全に暴走している。太ももをゆっくりと撫でる手が熱くて、余計にいやらしい。
そのまま真田の手はスカートの中にまで入ってきて、下着の中に手を入れようとしている。


「んっ・・・やぁっ・・・ダ、ダメッ!」


わたしは力が入らないながらも、精一杯力を入れて、真田の頬を両手で挟んだ。


「む。何をする・・・」
「それはこっちの台詞!元気そうだから、保健室行こう!」
「・・・仕方ないな」


真田はゆっくりと立ち上がって、わたしの手を握った。
今度は大丈夫そうだ。さっきのが演技だったんじゃないかと思うくらい、真田はしゃんと立っている。
でも顔がまだ赤くて、わたしは心配になった。
顔を覗き込むと、真田も丁度視線をわたしに向けるように下げたところだった。


「・・・その代わり、後でたっぷり相手をしてもらうぞ」
「え!?」
「このまま終わると思うな」
「ちょ、ちょっと真田!」


真田はわたしの手を引っ張りながらぐんぐんと廊下を進んで行く。
ちょっと!すごい元気じゃん!
真田が元気になって良かった・・・けど、さっきの台詞の事を考えると恥ずかしくて死にそうになってしまう。


「・・・真田ぁ」
「冗談だと思っているのなら、今から覚悟しておく事だな」
「え!」


冗談じゃないらしい。ど、どうしよう!






(20120214)