last forever





授業が全部終わって、帰りのホームルームまでの間、私は隣の席の男と他愛ない話をしていた。


〜それ取ってー」
「はい」
「あ、ついでにあれも」
「もー自分で取りぃや」


それとかあれとか・・・ちゃんと名前で言いよ。
それで分かる自分もあれやけど・・・ただのクラスメイトでしかない彼の“それあれ”を理解してしまう私はこいつに惚れている。

でもこの男・・・一氏ユウジは何とまぁ同じ男が好きらしい。
ちなみにお相手はテニス部の金色小春くん。そしてその小春くんとも私は仲良し。
ユウジとおったら自然と小春くんとも友達になった感じ。クラスも一緒やしね。
小春くんめっちゃえぇ人やし、ユウジが惚れるんも分からんことはないけど・・・ないけど、女としてのプライドが許さんっつーか・・・ああもうっ!めっちゃ複雑や・・・。


「ユウく〜ん」
「小春ー!」


そして彼等の仲は公認である。
そりゃ場所関係なくベタベタしてたら公認にもなるわな・・・でもホンマに付き合ってんのかなこの二人・・・異常に仲はいいけど、恋人同士って雰囲気ではないような気もするし。
今更やけど聞いてみよかな。


「なぁなぁお二人さん」
「何や?」
「ん?どないしたんちゃん」


無意味に(いや意味はあるんかもしれんけど)手を取り合って見つめ合う二人に声をかけると、くるりと同時に私の方を見た。
ニコニコと幸せそうな顔をしている二人に意を決して問うてみた。


「ユウジと小春くんて付き合ってんの?」


私の質問に対して、二人は黙って顔を見合わせた。
その後、小春くんはプッと噴き出すと、両手を叩いて笑い始めた。
ユウジもはぁーとため息をついて、呆れたように私を見る。


「嫌やわぁちゃん。私らはそんな関係ちゃうよ。なぁユウくん」
「仲はえぇけど・・・まぁちゃうな」
「でもユウジは小春くん好きなんやろ?「」
「好きや。でも何や・・・よう分からん。むずいねん色々と」
「はぁ?分からんのはこっちやねんけど」
「うっさい」


ぷいっとそっぽを向いてしまったユウジ。
私は納得行かなかったけど、これ以上しつこく聞くとユウジの機嫌が悪くなるのは目に見えている。
だから仕方ないけどもう何も聞かないことにした。とりあえずユウジと小春くんは付き合ってないことは分かったからよしとする。


「だってユウくん「小春っ!」ごめんごめん内緒やったね」
「?」
「もうえぇやん、この話は」


小春くんが何を言おうとしてたんか気になる。
だってユウジめっちゃ必死で止めるんやもん。それに話逸らすし・・・。

もしかして小春くんやない別の誰かを好きなんかな?ありえん話ではないよな?思春期やし、うん。・・・やっぱり問い質したい・・・いいかな、アカンかな・・・ん〜!どうしよ〜!
私が一人考え込んでいるとホームルームを開始を告げるチャイムが鳴り、小春くんは小走りで自分の席へ戻って行った。
私は隣にいるユウジの横顔を見つめる。聞きたいけど、何やろ・・・怖いなぁ・・・。
小春くんやったら何となく安心やけど別の人やったらどうしようもないやん・・・ますます私の出る幕ないように感じる。
・・・私も男として生まれてきたらユウジの恋愛対象に入れんのに。
今ほど女に生まれた自分に嫌気さしたことないわ・・・。


「さよーならー」


その声にハッとして顔を上げると、いつの間にかホームルームは終わっていて、みんな席を立っていた。
帰り支度をしてなかった私は、机の中から教科書やノートを出し、それを鞄へ納めていく。
ふと自分の机に影が出来て、視線を上げた。そこにはユウジがいて、私を見下ろしていた。


「帰らんの?」
「帰るよ?何で?」
「・・・別に」
「部活・・・って今日は休みやっけ」
「うん」
「ユウジこそ帰らんの?小春くん待ってるんちゃうん?」


ユウジはいつも小春くんと帰るから、ホームルーム終わったらすぐに小春くんの席へ行って、帰ろ〜と語尾にハートマークでも付けそうな勢い・・・ってあれ?

小春くんおらんやん!
何で?そんな私に気付いたのか、ユウジは、小春やったら先帰ったと私に言ってきた。
ますますおかしい。ユウジが簡単に小春くんを帰すなんて絶対ありえん。
この嫉妬深い男がそんなこと許すわけない。やっぱり他に好きな人が!?

・・・ははーん、謎は全て解けたで、ユウジ。
その人を待つための時間潰しに私と話してるんやろ?ユウジに恋する私としては悲しい事実やけど、しゃーないから協力したるよ。
けどこの私を利用するなんて、なかなかえぇ根性してるやん。


「で?」
「何がや?」
「新しい想い人は何組?」
「ブッ!な、何やねんいきなり・・・」


この焦り様・・・やっぱり小春くんやない誰か他の人が好きなんやな!
くそー誰やねん。しっかり顔拝みに行ったろうやないか。それで羨望の眼差しで見たんねん!


「どんな人なん?」
「・・・・・・言わん」
「何よ協力したるって言うてんのに」
「そんなんいらん」
「かわいくないなぁ」


ユウジの場合、ゼロからじゃなくてマイナスからのスタートなんやから協力ないと難しいって思ったから言うてんのに。
何なんよ。まぁいいけど。どうせ近々すぐ見れるんやろうし?それまではユウジに付き合っ・・・・・・・・・・・・・・・。


「俺が・・・やで?」
「・・・は?」

「この俺が・・・小春以外を好きになってしもたんやで?・・・しかもよりによってに、女のお前を好きになるとか・・・ありえんやろ。でも好きになったもんはしゃーないわな・・・潔く告白するけど・・・・・・って聞いてんのか?」
「へっ?あ、うん・・・え?」
「・・・何やねんお前」
「びっくりして・・・」


いきなりキスされたか思うたら意味不明なこと言い出して何がなんだか分からん。
ユウジには他に好きな人ができた。私はそれが当然男やと思った。でもユウジは・・・


が好きや」


私を、好きやって、言うてる。


「私・・・女ですけど?」
「アホ、見たら分かるわ」
「じゃあ何で・・・」
「こっちが聞きたいわ。女なんか興味ないけど、お前は何かちゃうんや。女やのに・・・むっちゃ好きやねん」


死ぬかと思った。
幸せで死ぬかと思った。いや、半分くらい死んだかもしれん。
絶対叶うはずないと思ってた恋がまさかの大どんでん返しやで?もう人生の全部の運使い果たしたんちゃう?大丈夫か私。
明日から見るも無惨な生活が始まったりするんちゃうん?

「・・・何か言え「私も好きや!」


今の今まで座っていた私は勢いよく立ち上がると、ユウジに掴み掛かるようにそう告げた。
あまりの勢いにユウジは小さく、うおっと声を上げ、一瞬肩を竦めた。


「ユウジ・・・」
「・・・何や」
「浮気せんといてな」
「お前以外女に見えんから安心せえ」
「ちょ・・・!めっちゃ嬉しいけど・・・私が心配してんのは女やない。男や!」
「分かっとる分かっとる」
「ホンマかいな・・・」


めっちゃ心配やわ・・・私はユウジ以外興味ないけど、ユウジは分からんやん。
前まで小春くん一筋やったんやし。ユウジが好きそうな男は近付けたらアカンな。
よっしゃ、小春くんと協力して、バリアー張らんなアカンわ。


ー」
「何よ。今妄想で忙しいねん」
「・・・死ねや」
「何やて?」
「すんません。・・・それでやな」
「何?」
「もっかいしていい?」


ユウジは自分の左の手の平を私の首の後ろに回して、囁くようにそう言った。
私が答える間もなくその手は後頭部まで上がり、そのまま引き寄せられてキスされた。

それはすぐ離れてしまったけど、ユウジは私の目を見てもう一度好きだと言ってくれた。
だから私も返事をする。それから、ぎゅうっと抱きしめられて、何度も何度もキスされて、最後は大人のキスをして、やっと開放される。

ユウジの熱い面を見て少し・・・いやかなり戸惑ったけど、やっぱり嬉しかった。
明日になって、なかったことにしてって言われたら私本気で死ねるわ。
一生浮上してこんと思う。だから私を捨てんといてな。ずっと好きでいてくれるようにがんばるから。
そう言ったら、ユウジはお前めっちゃかわええこと言うな・・・と呟いた後、


「別に頑張らんでえぇやん。そのまんまのが好きやから」


と、もう神様ホンマにありがとうと叫びたくなるようなことを言ってくれて、思わず涙が出た。
私はユウジを好きになって大正解や。
叶わんと思ってたのに成就したこの恋はまさに奇跡。奇跡という名の運命。
もう離さんで。この手も、その心も。だからこれからずっとずっと私の相方でいてな?


「・・・むっちゃ好きや」






(20090410)四天の日!