ちゃん、最近ユウジの話ばっかやんなぁ」


小春ちゃんが「コスメとかドラマの話したいー!」と頬を膨らませて怒っている。
・・・怖くないけど。むしろめっちゃかわええ!


「ほんまに?気づかんかった・・・!」
「今日ユウくんとシフト同じなん?」
「うん!最近会ってへんからむっちゃ緊張する!!」
「もう・・・ちゃん恋する乙女やん!」


一氏さんとはあれからよくケーキを作ってもらったり仲良くしてもらってる。
友達以上だけど、恋人未満。完璧わたしの片思いだ。
最近は一氏さんの学校が忙しいらしくあまりシフトが入ってなかったり、うまいことシフトが被らなかったりかれこれ約2週間ぶり。


「おー。久しぶりやな」
「う、うん!」
「今日は小春とお前か。ほならケーキ作ったるわ」
「やったー!一氏さんのケーキ好きです!」
「っば・・・?!ああ?!あ!?」
ちゃんは別にユウジが好き言うてへんわ」(小春ちゃんのいじわる)
「ちょ!小春ちゃん!!一氏さんも好きですよ!」


これじゃあ、わたしが『一氏さんのケーキは好きだけど一氏さんは嫌い』みたいな言い方を小春ちゃんがするから訂正したらプチ告白みたいなことをしてしまった・・・!恥ずかしい・・・!
勇気を出して一氏さんを見ると真っ赤になっていた。
わたしもきっと真っ赤だ。しばらく沈黙が続いて見かねた小春ちゃんが切り出した。


「さー!仕事しましょ」
「はーい・・・」
「あーい・・・」


仕事中は小春ちゃんと話したり一氏さんをチラっと見たり・・・もちろんちゃんと業務をこなしたり。
仕事が始まってから少ししたら可愛らしいお客さんがきた。


「「こんにちはー!」」
「いらっしゃいませ!おつかいかな?」
「そうなのー!あのねー、お母さん誕生日なの!」
「ケーキ買いにきたの!!」
「あら〜偉いわね!何のケーキがええかしら?」


小春ちゃんが双子の可愛いお客さんの近くに行く。
でも段々、双子の子どもたちの表情が変わってくる。・・・今にも泣きそうだ。


「どうしたの?!」
「・・・ああああん!!なんでないのお!」
「うえええん買えないよーー」


すっごく大きな声で突然泣くもんだから驚いて一氏さんがこっちにきた。
小春ちゃんが一生懸命なだめてるけど、双子が泣いてる理由が解らない。
すっごい険しい顔で一氏さんは双子を見ていた。双子たちの「ない」「買えない」・・・?
目的の物がなくて買えないってこと?


「あ!もしかしてキャラクターケーキ?!」
「そういえば・・・昨日で売り切れてもうたって店長言ってたわ」
「作れるん厨房のリーダーしか・・・!」
「それが今日リーダーおらへんのよ」


双子は泣くしわたしも泣きそうになった。どうすればええんやろ・・・。
隣にいた一氏さんがわたしの頭を乱暴に撫でて双子の傍に行く。
びっくりした。驚いて涙も引っ込んだ。


「泣くなや。俺がケーキ作ったる」
「・・・ひっく。ほんま・・・?」
「あっこの席で静かに待っとったらすぐ作るで」
「「静かに待ってる!!」」


一瞬にして双子は笑顔に変わった。わたしも笑顔。
それを見て満足したのか一氏さんもちょっと笑顔になったような気がした。
目が合ったらすぐに「なんや」って言って不機嫌そうな顔に戻ったけど。
どんどん彼に惹かれていくのが分かる。


手伝えや。さすがに俺一人は無理や」
「へ?あ、はい!小春ちゃん、店番大丈夫?」
「大丈夫よん♪」


わたしの手伝いなんていらないくらい一氏さんは器用だ。
人間的にはすっごく不器用なんだろうけど。
そんなところも全部、一氏さんっていう存在がわたしの中でだんだん大きくなってくる。
心が締め付けられるくらい、好きになっていく。


「リーダーにはさすがに敵わんけど・・・どや、こんなもんやろ」
「すごい!!ちょ・・・!箱詰めして双子のところ持ってく!!」
「おま!そーっとやで?!慎重に扱えボケ!」
「早く見せたいねん!」
「タメ口なっとるし!」


早く双子の喜ぶ顔が見たくて、急ぐけど身体が追いつかない。
慎重に扱わないと形が崩れてしまうし、でも早く見せたい。
ようやく箱に入れたところでちょっと早足で双子のところまで行こうとした。


「おい!!」
「っきゃ?!」


段差につまづいて転びそうになった。・・・あれ?
とりあえず手元を見てみる。・・・ケーキは無事だ。だけど浮遊感がある。


「ほんまドジ。お前、ほおっておけへんわ」
「きゃああ!一氏さん!!」


一氏さんにお姫様抱っこされていた。嬉しいけど嫌・・・!
ていうか顔近いし・・・!恥ずかしくて直視できない。
ぎゅっと目を閉じてしまった。


「・・・!不可抗力やん」
「?!」


唇に触れるようなキス。
キス?・・・キス?!ひひひ一氏さん!?
一氏さんはわたしをゆっくり降ろしてポンっと背中を押した。


「・・・はよ行けや」


顔を真っ赤にして平気なフリしてる不器用な人。
優しくて、不器用で、口が悪くて、人一倍頑張り屋さんなところ。
そんな君の本当の気持ち、知りたいけど怖いから聞かなかったし、言わなかった。


「っわ!小春ちゃん」
「双子、待ちくたびれてるで。はよ行ったげて♪」
「う、うん!」


「・・・ユウくん」
「(ビクッ!)」
「厨房でエッチなことしたらアカンで〜」
「し、してへんて!!小春〜〜!!!」


2人でいられる時間はあっという間で、1人の帰り道はとっても長かった。
君もわたしの気持ちに気づいているかな?


「お姉ちゃん嬉しーの?笑ってるー!」
「え?!あ、うん!ケーキ、お母さん喜ぶよ!絶対!!」
「「やったー!!」」


2人でいられる理由を小さなことでもいつも探していた。
“一緒にいたい”なんて簡単に言えない関係だったけど・・・踏み出してもいいかな。


「一氏さん!」







(20111025)