「甲斐くん!今って何食べたい気分?」
「んー、あっちーし・・・パイナップルとかぁ?」


わんの大好物!ってキラキラな笑顔で言われたら・・・買いに行くしかないでしょ。
それに甲斐くんの好きな食べ物はとっくに把握済み。佐世保じゃなくて今の気分はパイナップルなのね!

缶詰めの加工されたやつじゃなくて、あの、マジな、パイナップルの方を買いに私は出かけた。

木手くんからは甲斐くんを甘やかすなとよく注意されるけど、甘やかさずにはいられない。 時にカッコよくて、時にカワイイこんな彼氏・・・世界にたった一人だけ!!


「もしもーし慧くーん?今ヒマ?」
『やーから電話なんて珍しいな、どーしたんばぁ?』
「パイナップルの切り方教えてほしいの!」


市場で買ったばかりのパイナップルを抱えて慧くんのうちに向かう。
その道中でわたしの天敵、木手永四郎に会ってしまった。

会いたくない奴に限ってよく会う・・・あの法則ってなんていうんだろうね?


「ちょっと待ちなさいよ。甲斐くんの好物ですね、それ」
「う、うん。ソウデスケド・・・」
「はぁ・・・。君と、甲斐くんのおばあぐらいですよ」
「え、なにが?」
「甲斐くんのこと甘やかすの」


5歳から甲斐くんと幼馴染をしてる木手くんは相変わらず厳しい。
木手くんがこんなに厳しいから私が甘やかすんだ!なんて、言ったら・・・木手くんが怖すぎて何も主張できない。 ゴーヤの刑はもちろん勘弁だ。

所詮私も木手くんに逆らうことが出来ない一人である。


「じゃ、わたし慧くんとこ行くからー・・・」
「パイナップルの切り方ぐらい自分で調べなさいよ。馬鹿ですか。」


グサッ。図星すぎて何も言い返せない・・・!!
もう、こうなったら!ちょっとだけ慧くんに愚痴聞いてもらお!!!だって慧くんは優しいから! 木手くんと大違いで!


「永四郎の言うことは適当に流しとくのが常識さぁ」
「うーん・・・そっかぁ」


いちいち付き合ってたらキリねぇーしという助言を慧くんから頂いた。
結局わたしは慧くんの隣にいて愚痴っただけで、パイナップルは見事に慧くんが華麗な包丁さばきでテキパキと切ってしまった。あ、これ絶対わたしに出来ないやつ。


「わぁー!!甲斐くん超喜びそう!」
「うり、盛り付けぐらいやーがやれ」
「はーいっ!」


半分にして中身を綺麗にくり抜いた。(慧くんが)
そのくり抜いたパイナップルの皮を器にして一口サイズの実を入れる。わぁ、すごくお洒落で豪華に見える!

半分は慧くんにあげて、もう半分を甲斐くんに今から持っていく予定。
冷たい方が旨いと言って慧くんが気を利かして保冷剤をくれた。ほらね?慧くんって優しいでしょ。















「見てー!見てみてー!!甲斐くーーーん!!お邪魔しまーす!」
「今わんチョー忙しーのー!手ぇ離せねー!!」
「いま行くよーー!!」


甲斐くんはコントローラーを握りしめてTV画面の敵と熱いバトル中だった。

わたしはそのバトルが終わるまでパイナップルを手に持ちながら甲斐くんの横で待つ。
バトルがひと段落したのかポーズボタンを押して甲斐くんはわたしの方を見た。


「おお!?パイナップル!!なにそれ盛り付けスゲェ!!」
「慧くん直伝!新鮮切りたてだよー!」
「ちょーーうまそおお!!わんに?食いたい!!」

「はい、あーん」
「あーん」

「ど?味は?甘い?」
「んまぁ・・・!」


あぁもう幸せ!!もっとくれと言わんばかりに口を開けて大人しく待つ彼。
わたしは一口サイズの実を甲斐くんの口に何度も放り込む。
その度に笑顔で美味しそうに食べる顔を見て自然とわたしも笑顔になる。


「はあぁ〜〜もう最後の1個だぁ・・・」
「あい?もう??」
「うん・・・はい、あーー・・・んッ!?


甲斐くんの口に持っていこうとしたパイナップルの行方は、何故かわたしの口の中に。
勢いよく手首を掴まれて甲斐くんがわたしの口に入れたのだ。

ニヤッとイタズラっ子みたいな顔してる甲斐くん。


「どーよ?」
「甲斐くーーん!!!」


勢いよく甲斐くんに飛びついたらしっかり受け止めてくれた。
あれ、甘やかしてるつもりが・・・わたしってばいつの間にか甘えてる?甘やかされてる?
付き合い始めたその日から何百回、何千回も言ってるあの言葉が頭をいっぱいにする。


「っつーかわん1人で食いすぎた。舌ピリピリやっし」
「なんでピリピリするか知ってる?」
「知らねーなんで?」
「プロメラインっていう酵素が唾液中のタンパク質分解しちゃうんだって」
「ふーん???」
「要するに、甲斐くんの舌が溶けてるんだよー」

「じゃあさ・・・わんぬ舌、溶けてるか確かめて?」

目を閉じたらパイナップルの香りが近づいて、重なる。
数秒、数分、何度も、何度も舌を絡ませて。
ゆっくりと体の重心が床に倒れる前に器用に片手でブラのホックを外されてしまった。

甘やかしていいのも、甘やかされるのも、甘えるのも、全部、わたしだけがいい。
そんな甘い我儘なお願いを心で唱えて、想いを乗せて、またわたしはあなたに「好き」って呟くの。


「ねぇ好き、大好き。」
「知ってるさぁ」








(20170827)