「うっっっっっそおおお!??!?」


先ほどまでテニスコートにいた部員たちが練習を切り上げて部室に続々と入ってくる。
どうやらわたしの雄たけびに近いひとり言は外にまで筒抜けだったらしい。
でも、思わず大声を出してしまうほどの衝撃だったのだから仕方がない。

一人で「えー!?え!?!?えええ!?」と混乱していたら眉間に皺を寄せた木手が一言。


「一体何事ですか」
?でぇーじでけぇ声出してぬーやが」

「いや・・・それが、」

「なぁ知念〜そこにあるタオル投げてくれ!つーか今日やけに疲れたなぁ」
「うり。・・・正月明けだから、だな」
「おっとサンキュー」

「そうよ!!そう!知念!大正解!!!」

「「!?」」


部活が始まるちょっと前、木手がわたしの事をじっと見つめるもんだから「なに?」って聞くと「いえ。」と目をそらす。
とにかく気になってしまい、しつこく問いただすと木手は観念してドストレートに「あなた・・・少し太りましたね」と悪魔の発言をした。

ちょっとその後の記憶が飛んでしまってるんだけど恐らくマネージャーの仕事はきっちりこなした。・・・たぶん。
そして部活終了間際にそういえば以前、慧くんのためによる慧くん専用の体重計を部室に設置したことを思い出したのだ。

本人は全く使用する気もダイエットをする気もない様子でこの体重計は埃を被ってそのまま放置されていたが・・・
木手にあんな事言われて(ちょっと乗ってみよっかなぁ?)なんて軽い気持ちで体重計に乗ってみたら信じられない数字に驚愕。
え、これ壊れてるんじゃなくて?と、体重計の故障を疑ってしまうレベルで。


「体重ってこんな簡単に増えるっけ!?体脂肪も・・・!」
「まったく・・・正月休みで体を動かさずダラダラしていた結果でしょう」
「そーいやぁ、わんも体重い」
「わんも」

「あなたたちねぇ・・・」


甲斐と平古場も巻き添え3人、木手の命令により正座させられガミガミ説教された。
正月休みぐらい好きにさせろよ、なんて反論は誰一人できず・・・木手からは「自己管理がなってない」とかエトセトラ


「ああ〜もう、年末にフーチバーそば3杯も食べるんじゃなかった」
「わんは三枚肉そば15杯食ったどー」
「慧くんはレベル違う」
「なぁ、そんでは今何キロなわけさぁ?」
「女子に体重聞くな」
「あがッ!帽子脱げたやっし!!」

「そういやぁムーチーの日もうすぐじゃねーか?」


旧暦の12月8日がムーチーの日。沖縄伝統行事のそれはその年によって日付がコロコロ変わる。
ムーチーとは月桃の葉で包んで蒸した餅のことであり、カーサムーチとも言う。
そこら辺に月桃の葉が生えているので小さい頃はそれを持って帰って家でおばあと一緒に作ったりした。


「ムーチーの葉っぱ校庭に生えてたよね?持って帰ろーっと!」
「食う気マンマンじゃねーか」
「もうしょうがないの!食欲に勝てない!!全敗!」
「やしが、秋からずっとそれ言ってるぞ」
「食欲の秋も怖いけどお正月も怖いね」

「いい加減にしなさいよ」


木手の低い声が響き渡り説教がまた始まりそうだったのでそそくさと着替えて全員部室を出た。
結局仲良しなわたし達は全員で校庭に向かい、ムーチーの葉っぱを取っていった。

帰り道、次々と人数は減っていき最後は裕次郎と2人並び歩く。両手いっぱいにムーチーの葉っぱを抱えて。


「ねぇムーチー楽しみだね」
「紅芋!黒糖!白糖!わん全部食う!」
「だよねー!?ダイエット当分ムリ!」
「ダイエットする必要ねーだろ?見た目変わってないあんに」
「裕次郎が鈍感すぎて分かってないだけでしょー・・・全体的に肉ついた絶対。」
「見た目分かんねーって・・・・・・あっ!」
「え?」


ムーチーの葉っぱごと包まれた感覚。
5秒経ってようやく思考回路が追いついてきて今の状況に気付いた。
わたし、いま、裕次郎に抱きしめられてる!?


「ちょっ、へ!?!?」
「見た目じゃ分かんねーから抱き着いたら分かるかなーって!」


続けてへらへらしながら「抱き心地いいさぁ〜」って言うもんだから、それってやっぱり太ってるんじゃん!もう!と怒りながらバシバシとムーチーの葉っぱで裕次郎を叩きまくった。


「今のままで十分良いと思うぜ」
「ムーチー食べ過ぎてこれ以上太っても?」
「そりゃあ・・・慧くん超えたらさすがにやべーんじゃね?」


自分が慧くん並みに太っちょになった姿を想像して思わず笑ってしまった。
裕次郎も同じ事を想像したみたいで、わたし以上に声を出して笑っている。こいつバカだ、バカ。


「ムーチー作りすぎて、また食い過ぎんなよー?」
「分かってます〜!!じゃあまたね!」


珍しい裕次郎からの忠告も虚しく案の定作りすぎて、年末年始に引き続き食べ過ぎたのは言うまでもない。自分の食欲が怖すぎる。
ムーチーの葉っぱをあんなに取ってこなきゃ良かった!なんて今更遅すぎる・・・後悔の嵐だ。
情けないけど体重計は怖くて未だに乗れない。ただ、体が重いのは確か。

その事を裕次郎に伝えると「やっぱ見た目じゃ全然分かんね」と言って笑った。この鈍感バカ。


「じゃあ、もう一回抱きしめてみる?」






(20190117)