さん」
「は・・・はい!?」


すごく驚いた。

だって帰ろうとしたらいきなり木手くんが!あの殺し屋とか言われてる木手くんが!話しかけてきた!
同じクラスになったこともないのに、なぜ・・・。怖い・・・。


「この後、時間はありますか?」
「・・・はい?」
「帰りに何か用事がありますか、と聞いているんです。」


木手くんは相当にイラだっているみたいで、見る見るうちに眉間に皺が寄っていく。
ハイって言わなきゃ殺されそうな気がして、わたしは「ないですけど」と間の抜けた声で答えてしまった。
答えてしまった、って別にたいした用事があるわけじゃないけど、なんか怖いじゃない!わたしに一体なんの用事!


「少し・・・待っていてもらえますか?」
「は・・・はい・・・」


もうハイだけ言っていればどうにかなるんじゃないだろうか、と思っていた矢先。
背後から「永四郎」と低い声が聞こえて、わたしは色気のない悲鳴をあげてしまった。


「ひゃ!ち、ち、知念くん・・・!」


ひー!こっちは顔が怖くて有名な知念くん!!
よくわからないけど、なんかすごい人が二人もいて、わたしをサンドイッチに・・・。
わたしは完全にパニックに陥っていた。


「知念くん・・・何の用です?」
「監督からの伝言でミーティングはなしになったさぁ」


知念くんはそう言って、なぜかわたしをじーっと見つめてくる。
そんなに見つめても何も出ないんですが・・・何を期待しているのかわからなくて「知念くんってすごいんだね」と、とりあえず褒めておいた。
するとなぜか木手くんが不機嫌そうに知念くんを睨んだ。


「木手くんも、すごいんだね」


褒めてほしいのかと思って、そう言うと機嫌をなおしたみたいだった。よかった、命拾いした。


「今日の部活は無しでいいよな」
「・・・自主練にしましょうか」
「あいつら騒ぐぞ、絶対。」


あまりに冷たくピシャリと言い放つものだから、わたしは唖然とした。
でも木手くんは特に怒りもせずに「甲斐くんと平古場くんに先に言ったんですか・・・まったく」とだけ言うと、すたすたと歩き出した。
知念くんと木手くんを見比べていると、知念くんに「早く行け」と背中を押された。


「ひゃあっ!」
「 ? 」


押された拍子で木手くんの背中にぶつかってしまった!知念くん、なんてことを!


「すっ、すいません!」
「構いませんよ。」


木手くんはなぜか突然、わたしの右腕を掴んだ。そしてそのまま歩き出した。な、殴られるのかと思った・・・。
リーチが違うから、足が勝手に速く動いてつらいけど、そんなこと言い出せない・・・なんかこわいし。ああ、一体どこへ行くんだろう・・・。


「俺としては用件を早く済ませてしまいたいんですが、」
「・・・?」
「聞いていますか」
「いや、聞いてますけど・・・」


意味がわからないことを言い出した木手くん。
わたしが首を小さくかしげた瞬間。


「あなたの事が好きです。」


木手くんは、突拍子もないことを言い出した!


「・・・あの、テニス部ではずいぶんと楽しい罰ゲームを」
「真面目に聞きなさい。あなたの気持ちは?」


木手くんは廊下のど真ん中で足を止めると、わたしの目を真っ直ぐに射抜くように見つめる。
・・・あの。まだ掃除の時間だから人がいっぱい歩いてるんですけど・・・。

でもやっぱりわたしはそんなこと言い出せなかった。チキンなのは重々承知しています・・・。


「・・・あのー・・・その、えっと・・・」
「なんですか。ハッキリ物を言いなさいよ。」
「この後、木手くんのとこの裕次郎とアイスを食べに行く約束をしてるんだけど、行く?」
「・・・付き合いましょう」


それ恋人として?それともアイスに付き合うってこと?


よくわかんないけど、わたしと裕次郎と木手くんは気まずい思いをしながら各々アイスを食べました。
冬の季節が近づいてきたからなのか、まだ暖かい気温のはずなのになぜかアイスを食べた後、ものすごく寒くなって、なんかあまり楽しくなかった。




(20171109)