「はい、このペアで決まりねー」

「やだ・・・やだあああああ!!!」
「アーン!?俺様のどこが不満なんだよ!?」


わたしが「顔」と即答したせいで、跡部の口元が引きつった。
美術の時間。粘土で相手の顔を作る授業・・・なんでわたしが跡部とペアなの!跡部の顔って作るのめんどくさそうだし、変に作ったらねちねち文句言ってくるだろうし、絶対やだ!


「わたし向日とペアになる!なんか簡単そうだし!」
「お前、それどういう意味だよっ!」
「アカンて。お前らクラス別やんか」


それを言うなら、忍足だってわたし達と同じクラスなのに・・・!人数足りないからって隣のクラスに回されて、ずるい!
向日はと言うと、なんだかめちゃくちゃな形の忍足の顔を作っていた。


「わー向日天才だー鼻の下長いところとかそっくりー!」
「ケンカ売ってんのか、。さっさとやれや」


忍足はこういうのだけは器用で、丁寧に向日の顔を作り上げていた。
それを眺めていると、後ろから粘土まみれの跡部の手が、わたしの手を引っ張った。


「こっちに来やがれ!」
「やだ!汚い手で触らないで!」
俺様が汚いみたいな言い方するんじゃねえ!モデルがいねえと作れねえだろうが!」


事もあろうに跡部は、両手でわたしの頬を挟みこんだ。
わたしが悲鳴を上げて顔を引きつらせるのをもろともせずに「よしわかった」と呟いて粘土いじりに没頭する跡部。


「そこ座って、顔上げろ」
「・・・わたしだって跡部の顔作らなきゃいけないのに・・・」
「顔上げろって言ってんのが聞こえねーのか、アーン?」
「痛い痛い!」


跡部は時折、粘土に没頭するわたしの顎を掴んで、乱暴に持ち上げた。
何度か首がグキッと鳴って文句を言ったけど、やっぱり跡部は聞かなかった。
わたしは何度も跡部の顔を見ながら、ふと思った。


「部活でいっつも一緒なのに、こんなにじっくり顔見るの初めてだから変な感じだね」
「そうだな。下向くなっつってんだろ」
「跡部は思ったよりも顔が薄っぺらいね」
「アァン!?お前こそ、面白みのねえ顔しやがって!」
「女の子にそれはないでしょ・・・!ま、跡部は面白い顔だね」
「てめっ・・・ケンカ売ってんのか!」
「イチャついてないで、さっさとやれよお前ら」





跡部は天才だった。





「で、なんでこれが出来るの・・・?」
「似てんだろ」
「全然似てねえよ・・・!」
「モデルはオスカルやろ、これ!」


跡部が作ったわたしの顔は、何故か少女漫画モデルだった。
顔の半分以上が目で形成されていて、無駄に瞳がキラキラ輝いている。


「・・・跡部、絶対これD判定だよ・・・」
「なんでだよ!そっくりじゃねーか!」


跡部はわたしの頬をまた両手で引っ張って、顔を近づけた。
見つめれば見つめるほど跡部は自信満々な顔になっていく。目腐ってる、この人・・・。


「お前ら本当はデキてんじゃねーの?」
「アーン?何でそんな話になるんだよ」
がこんな美しく見えるなんて、跡部目腐っとるやろ」
「忍足、何気にわたしに失礼だね」


忍足はため息をつきながら、粘土のわたしの顔を突付いていた。
跡部も不満そうな顔をしながら、自分の作品を眺めている。


「うめぇじゃねーか。雰囲気出てるだろ」
「どの辺が?解説解説!」


向日に促されて、跡部は一つ咳をして、わたしに向き直ると目の下を人差し指の背でなぞった。


「まず、目だ。コイツの目はキラキラしてる」
「・・・そうなのかよ?侑士」
「俺にはわからん・・・」
「この、俺様を吸い込んでしまいそうな瞳・・・そっくりだろ、アーン?」
「え、えーと・・・跡部?」


跡部はどこか思いつめたような色気のある表情で、次はわたしの唇をなぞる。


「それにこの唇。いつもツヤツヤ輝いてて、俺を誘ってやがる」
「誘ってへん!誘ってへんよ!」
「きめぇ・・・きめぇよ、コイツ!」
「跡部、頭沸いたの・・・?」
「それに・・・」


そして跡部はわたしの頭を引き寄せて、髪の毛をサラリと撫でて頭にキスを落とした。


「柔らかい髪だ・・・触れてると心地良くて、離したくなくなっちまうぜ、アーン・・・?」
「跡部、髪の毛食べないで!」
「ちゅーか跡部が作った粘土、前髪まるちゃん並にギザギザやんけ」
「侑士、粘土とか言ってやるなって」


跡部は色気たっぷりのため息をついて、わたしを突き放すように投げ出した。
わたしの体は忍足に受け止められ、跡部はわたし達を指差してフッと笑う。


「以上だ。どうだ、似てんだろ?」
「我ながら全然似てないよ」
「全くもって理解できひんかったわ」
「つーか跡部、の事好きなんだな。超ベタ惚れじゃん」


ここまで褒める以上、跡部はわたしの事少なくとも可愛いくらいは思っていてくれてるんだろう。
ちょっと嬉しい。微笑みかけると、跡部は何故か忌々しそうな顔でわたし達を眺めた。


「ふざけんな。俺がなんでこんな地味な女」
「跡部、素直になりいや」
「つーかもうバレバレだしよ」
「だからなんでだよ。絶対有り得ねーだろ、こんな女!」


跡部は本気で嫌そうな顔でわたしのおでこに軽くデコピンした。そしてフッと笑って、この台詞。


「ふん、その痛そうな顔・・・俺様を誘ってやがんのか?アーン?」


「・・・ねぇ、自分で言うのもなんだけど、跡部絶対わたしの事好きなの自分で気付いてないよね?」
「・・・アイツあほや。あそこまで言っといてわかってへんて、ホンマもんのアホや」
「・・・おい、見てみろよっ」

「ファーッハッハッハ!我ながら最高の出来だな・・・おい、!こっち来い!もう一度見比べさせて、毛穴ぶち開けて俺様の美技に酔いな!」


意味わかんない。なんなの、アイツ・・・。
ふと忍足と向日の顔を見ると、やっぱり呆れた顔をしていた。

どうしてこんなのが好きなんだろう、わたしも。






happy birthday!(20101004)