「跡部景吾」
テニス部部長・生徒会長・俺様。わたしには一生縁のない人だと思ってた。(ていうか関わる気はまったくない)
あの日からわたしの運命は変わった。







!次の化学移動教室だよー」
「え!?全然準備してないっ!ちょっと待って、待ってー!!」
「早くー。行っちゃうよー!」


今日は何かとついてない日だ。
朝登校している途中、両目のコンタクトを落とすしカバンに眼鏡をいつもならいれてるのに今日に限ってない。
学校に着いたら何人かの人とぶつかって謝るばかり。黒板が見えないのに今日に限って先生はここぞとばかりに私に当ててくる。(結局全部答えれなかった・・・)


「化学の教科書・・・?どれ教科書・・・あー!もう!!これ!?これでいいや」
ー?」
「はーい今行く!!」


教科書を持って席を離れた瞬間、前に人がいたみたいで思いっきりぶつかって転んだ。


「いっっ・・・った・・・・・・!?」
「おい」
「え・・・!?」


ざわざわと人が集まってきた。大したことないのに・・・!ていうか何で!?
それもそのはず。ぶつかった相手が最悪だった。
起き上がれないでいる私に手を差し伸ばしてくれていたのかと思った。


「あ・・・すみませ・・・!」
「お前パンツ見えてる。」


ズドーーンと何かが落ちた、わたしの中で。今日ほど死にたいと思った日はない。
ありえない・・・人生で一番最悪な日だ。大勢の生徒の前でパンツを晒してしまった。


「ぶ!ぶつかってごめんなさい!それじゃあ!!」


恥ずかしさのあまりにわたしは、その場から逃亡。
授業には若干遅刻するし化学の教科書ではなく間違って生物の教科書を持ってきてしまっていた。
本当に今日はついてない。これはまさか今日、帰宅途中にわたしは事故にあうんじゃないだろうか・・・。
ああ・・・今日は細心の注意を払って帰ろう。


「あれー?!皆で寄り道して帰るけど行かないの?」
「うんー。家で大人しくしてる!」
「ケーキとか食べるんだよ?」
「う・・・ん。今日は帰る。ごめんね!」


先生の号令で帰る帰宅ラッシュを避けてちょっと教室に残る。
グラウンドを見ていたらいつの間にか教室にはわたし一人だけになっていた。部活の生徒は皆頑張ってるなぁ。
・・・眠いな。





「おいピンク色!!」
「・・・!?へ・・・っ?」
「お前だお前。何やってやがる。」
「ピ・・・ピンクって・・・・・・?」
「テメェのパンツの色に決まってんだろ」
「あ!」


たぶんあの現場をちょうど見てしまった人だろうか・・・。
見苦しいものを見せてしまって本当に申し訳ない。教室のドアに(恐らく)もたれかかってる彼が誰だか分からない。
こんな人いたかな・・・?あ、ていうか先生?いや、それにしては口調が荒い。


「もう七時だぞ。帰らねーのか?」
「嘘?!・・・あ・・・・・・外真っ暗じゃん・・・!」


どうしよう・・・!
外が暗いとなると帰るのがますます困難になる。でも帰るしかない。


「それじゃあ・・・!」
「あ、おま!!」


パンツを見られた人と一緒にいるのが耐えられないので逃げるように誰か分からない『彼』の横を帰ろうとしたらに思いっきりぶつかった。痛い・・・。
これは帰るまでにわたしは生きているだろうか・・・!神様もとんだ試練をわたしに与えたものだ。
もうギブです。ギブアップですよ神様・・・。大人しく何事もなく帰させてよ!


「お前・・・視力大丈夫か」
「ち、違うんです!普段は!今日コンタクト落としちゃって・・・だから正直あなたが誰かもわかんないです。ごめんなさい、ていうか恥ずかしくて顔すら見れません」
「俺様が分からねーだと?」
「は?何様か分からないですけど・・・すみません失礼します」
「アーン?」


私の発言の何かが気に入らなかったのか俺様は近づいてくる・・・怖い、怖い。
無理無理無理!!


「あ・・・の!ごめんなさいごめんなさい!!」
「この距離でも分かんねーのか?」
「いや、近い近い!!やだ!」
「目あけろって、キスするぞ」
「きゃああああ!変態います変態!!」
「ば・・・!声でけぇんだよ!!」
「きゃ?!」


俺様に馬乗りされる私。
つまり・・・ 押 し 倒 さ れ て ま す 。本当に今日はついてない。
見ず知らずの男に押し倒される状況が意味分からない。普通に生活していてこんなことがおこるわけがない。でも現におきてる。
なぜなら今日はついてない日だから。


「すみません、よけてください・・・!もう帰りたいんです・・・。」
「人を変態呼ばわりしといて帰るのか?」
「(え、事実じゃん・・・!)いや、その件に関しては謝るんで。」
「ほら、次は立たせてやっから」
「・・・?ありがとうございます」


俺様に手を差し伸べられ立ち上がる。“次は立たせてやっから”・・・何か引っかかる。


「・・・あ!移動教室のときにぶつかった人!!・・・ですか?」
「・・・ああ。気付くのが遅い。」
「あ・・・あの時は、その、えっと・・・」
「帰るぞ、ほら」
「はい・・・。」


この俺様の家はいったいどこなんだろうか。
わたしのガードマンみたいについてきてくれる。そのお陰で無事何事もなく家の目の前まで着くことができた。


「あの・・・名前、なんていうんですか?」
「アーン?俺様の顔を見て確認しろ」
「(教えてくれてもいいのに・・・)ちょっと、かがんで下さい」
「ッチ。仕方ねーな」


目を細めてよく見る。俺様との距離三センチ。どこかで見たことがある・・・。
だけど思い出せない。整った顔立ち・・・あれ・・・?グラウンドで、見た気がする。
いや・・・何度もどこかで見ている。


「あ・・・!跡部くん??!生徒会長の!」


「おせーんだよ」と跡部くんの一言と唇に柔らかい感触。
今日はついていないと何度も思った。何度も呟いた。


、また明日な」


なんだ。この瞬間のために今日は散々ついていなかったんだ。
じゃあわたしは今、この瞬間、一生分の運を使い果たしてしまったのではないだろうか・・・?
でも、明日はどんなことがおきるのかちょっと楽しみになってしまった。
きっとそれは跡部くんのせいだ。





(20110812)