席替えで隣になったのはまだ一度も話したことがない宍戸の幼馴染だった。
宍戸の幼馴染にしては見た目、髪の毛は長くて綺麗な顔立ちをしている。宍戸曰く「中身は完璧男だぜ、あいつ」らしい。


「あー・・・えっと、よろしくね」


こいつは俺様が隣になったことを今知ってあからさまに嫌な顔をした。
こんな反応されたのはこいつが初めてで俺は面食らった顔をしてしまった。


「・・・おう」
「席一番前だから私たち今日、日直だね」


どうする?とは聞いてきた。
日直の仕事は主に2つで黒板を毎時間消すのと日誌を書く作業だ。比較的日誌を書く仕事の方が断然楽だ。


「そうだな・・・」
「じゃあ、ジャンケンしよっか!」
「いいぜ」


こんな風に笑うんだな。俺もつられて笑ってしまう。が「勝ったほうが仕事選べる!」と意気込んでいた。
「さいしょはグー・・・」・・・勝ったのは俺様だ。はめちゃくちゃ悔しそうな顔をして自分の出したグーを見つめて後悔していた。
なんか、面白いやつだな。


「跡部、どっちの仕事がいい?」
「黒板」
「え?!」


てっきり俺様が日誌の仕事を選ぶものだと思っていただったから今度はが面食らった顔をして俺様を見た。










放課後、監督に用事があったのを思い出し、職員室に行こうとしてふと思い出した。


、日誌出しておいてやるからよこせ」
「あ。やば、書くの忘れてた」


バタバタと急いで机の中から日誌を取り出す。
・・・日付すら書いてねぇじゃねーかよ。シャーペンを取り出し、書き始めようとしていたので俺はの席の横に座った。


「ごめん大丈夫だよ、部活行きなよ。部長さん」
「・・・待つ」
「本当?ありがとー」
「何でお前・・・最初俺様が隣になったとき嫌な顔したんだよ」
「げ。やっぱバレた?」


そりゃ、あんなにあからさまに嫌な顔されたら誰だって気づくだろ。
こいつは表情豊かな奴だな。俺様に対して他の女みたく媚びたりもしない。だからなんとなく気になるんだろうか。


「女の子の中の女の子が怖いから」
「・・・は?」
「跡部によく媚びてる女の子たち。女の子にもいっぱい種類があるじゃない」
「あぁ」


テニス部の奴らを見てキャーキャー言うようなミーハーな女子や、みたいに関心のない女子もいるっつーことか。
俺様は断然、後者がいいけどな。何がなんでもオトしたくなる。そして俺様好みの女にしたい。


は・・・例えば俺様がの彼氏だったとして、俺様に短い髪の毛のほうが好みだから切れって遠まわしに言われたらどうする?」
「え・・・切らない。絶対に」
「・・・ッハ!大抵の女は切るぞ?」
「ん〜・・・なんか、跡部好みの女になりたくない。」
「仮にも付き合ってるんだぜ?」
「そう言われるともっと反発したくなっちゃう」


意地悪な、いたずらな顔をして笑うを見て不覚にもドキっとした。
あぶなく俺様がオトされるとこだった。いや、もうオトされてるのかもしれない。


「じゃあ、わたしの好みが坊主だったら跡部は坊主にする?」
「お前に言われたらな」


お洒落な坊主にしてきてやるよと言ったらは大笑いしていた。・・・結構本気で言ったんだが。


「ふふ・・・絶対似合わないからやめてね」
「・・・手、止まってるぞ」
「すっかり忘れてた!」


再び日誌に目を向ける。「一時間目は何やったかなぁ・・・」なんて考え込む。
窓から秋風が吹いて少し肌寒い。の髪が風でなびいて綺麗だな、と単純に思った。


「つーか、よくここまで伸ばしたな髪の毛」
「あぁ。なんとなく宍戸が伸ばしてたから一緒に。あいつは切っちゃったけど」
「あー・・・」
「跡部は髪の毛短い子が好きなんだ?」
「・・・割とな。似合ってればどっちでもいい」
「じゃあわたしが髪の毛短くしたら跡部、わたしに惚れちゃうかもね」
「そうかもな」


オトすか、オトされるか。駆け引き上手な女も俺様の好みだ。
日誌を見るフリをして下を向いて赤くなっているを俺様は見逃さない。


「書き終わったな」
「・・・ん、これよろしく」
「じゃあ、また明日な」


もう誰もいない廊下で一人、顔がニヤけながらも歩く俺。
明日、次はどんな駆け引きをしようか考えてたら後ろからに「跡部ー!!」とでかい声で呼ばれたから振り返ると、は走ってこっちに向かってくる。
なんだ、日誌に何か書き忘れたのか?


「書き忘れ・・・あった。」
「そうか」


に日誌を渡すと今日のページを開いた。確かに、「今日の嬉しかった出来事」のところが空欄だった。


「こんなん書いてるやついねーぞ?」
「いいの!」


俺様に見せないようにして書く。いったいなんて書いてんだ・・・?
乱雑に日誌を閉じて俺様に渡した。見てもいいのか?一応、確認しておくか。


「おい、これ」
「それじゃあ、また明日ね!」


俺様の言葉を遮って、鞄を持って急いで玄関に向かって行った。の姿はもう見えない。
日誌の今日のページはどこだ?気になって仕方がない。パラパラめくると今日の日付があった。


「今日の嬉しかった出来事・・・ッハ」


そこには汚い字で「ずっと好きだった人と放課後の教室で会話した」と書いてあった。・・・俺様の負けだ。仕方ねぇから明日の朝一番に、の一番欲しいであろう言葉くれてやる。










(20111007)