突然だけど、わたしは岳人が好きだ。


「岳人岳人。わたし達って友達?」
「うん」
「・・・聞いてる?」
「うん」
「・・・聞いてないよね?」
「うん」


岳人は、わたしの部屋のベッドに仰向けになって寝転がって漫画を読んでいる。
いやに真剣だ。従兄弟が邪魔だから、ってくれた少年漫画なんだけど・・・そんなに面白いのかな。面白いんだろうな。
岳人が家に来るのは今日で四日連続だ。毎日、来ては漫画を読み、夕飯を食べ、そして帰って行く。
漫画読みに来てるだけじゃん!岳人のせいで、わたしのプライベートタイムはゼロだ!


「岳人、聞いてよ」
「うん」


何か言われたら頷けばいいと思っているに違いない。今のうちに告白でもしてやろうか!と思ったけど、意味がない事に気付いてやめた。
今日は日曜だからって岳人が朝から来てて、わたしはちょっと疲れてしまった。好きな人といたら気疲れするでしょ!もう午後だし!
今日はお母さんがいないから、お昼ご飯はまだだ。おなかすいた。


「岳人、おなかすいたね」
「うん」
「本当に・・・?本当はすいてないでしょ」
「うん」


おなかすいてないんだって。わたしは、もう家にいるのが疲れたから食事に出かける事にした。
一人で行動できないから、誰かを巻き添えにしてやろう!日曜に暇そうなヤツ・・・。
考えて、全員暇そうな事に気付いた。ジローがいいかな、と思ったけど、ファミレスで寝られても暇だから別の人にしよう。
わたしは携帯電話をとって、即決で電話をした。


“・・・んだよ・・・”
「おはよう宍戸!寝てた?」
“・・・寝てんだよ・・・”


・・・あれ?電話切れた。宍戸はもう一度寝る事にしたらしい。実につまらないと思う。そして寝すぎだと思う。
わたしはもう一度電話帳を一周させると、ターゲットを決めて通話ボタンを押した。


「もしもしー」
“・・・なんや、か・・・”
「・・・忍足も寝てたの?」
“・・・あー”
「寝起きの声がいやらしいと思います!」
“・・・そうか?で、何?”
「お昼ご飯食べに行こう。おなかすいたー」
“もう1時か・・・そうやな。そしたらあと30分待ってて”


お昼ご飯は忍足に任せると絶対お好み焼きとか言い出すから、わたしがファミレスに指定した。
おなかすいたのに、あと30分も待たなきゃいけない!わたしはドキドキしつつ、何気なく岳人の横に寝転がってみた。


「岳人も行く?忍足もいるよ」
「うん」
「本当に行くの?行かないんでしょー」
「うん」


岳人と話しても面白くない・・・。岳人と、というか、岳人に、だ。本人は話を聞いていないし。
ごろりと寝返りをうつ岳人。岳人と向かい合って寝転がる形になって、わたしは照れた。
けど、岳人の視線は漫画へと釘付けだ。わたしはゴクリと喉を鳴らした。


「岳人、好き・・・」
「うん」


・・・蹴ってやろうか!いや、やめておこう。本人なんで蹴られたかわかんないだろうし。嫌われたくないしね。
わたしは家にいるのが苦痛になってきて、勇気を出してコンビニでアイスでも買って食べようと立ち上がった。
どうせ見てないからいいや。わたしは岳人の背後にまわって、外出着に着替えた。










「寒いのに、ようそんなモン食えるな」


ファミレスの前の花壇に座り込んでいるわたしを、忍足は怪訝そうに見下ろした。アイスを見て、気持ち悪いモノを見たかのように眉を顰める。


「あ、やっと来た。かよわい女を待たすとは何事」
「どこにおるん、そんなん」
「パフェ奢って」
「奢る義理ないわ」


わたしは残りのアイスを急いで処分した。
おなかがすいたから、早くご飯が食べたい。早く早くと腕を引っ張るわたしに、忍足は笑いながら付いて来た。





「あれ、そういえば岳人どないしたん?」


忍足は岳人と仲が良いから、岳人が漫画を読むためにわたしの家に通いつめてる事も知っている。
知っているんなら、岳人に何か言ってやってくれ!と思う。


「家で漫画読んでるよ」


そう答えた瞬間、忍足は呆けたような顔をした。その隙に、忍足の高そうなステーキを一つ奪い取って口に放り込んだ。
金持ちの坊ちゃんはこんな所でも高級ステーキか!貧乏人のわたしを見習って大量生産ハンバーグでも食べなさい!


「・・・お前、岳人置いてきたんか?」
「うん」
「俺に会うって言うたん?」
「言った事は言ったけど、漫画に夢中で聞いてもらえなかったよ」
「お前なぁ・・・」
「何?」


忍足は頭を抱えて俯く。
どうしたのかわからないけど、チャンスだと思って、わたしは忍足の付け合せのポテトを二つほど自分の皿に移した。


「アカンやろ。俺これ食うたら帰るわ」
「えー!なんで!?帰らないでっ!」
「お前とおったら岳人が、」
「岳人が何?」
「・・・何でもない。とにかく、帰るで」


そう言うと、忍足は突然ステーキにがっつきだした。
何、そんなに早く帰りたいの!?忍足は、岳人がいないから帰りたいに違いない。よっぽど岳人が好きらしい。


「・・・負けない!」
「は?」


忍足が一瞬ステーキから顔をあげた瞬間、忍足の頭の上に人の手が乗った。
何事かと思って見上げれば・・・驚いた。岳人が立っていた。一生懸命忍足の顔を鉄板に押し付けようとしている!危ないよ!


「何しとんねん!」
「それはこっちの台詞だっつーの!二人で何してんだよっ!」
「岳人!忍足の鼻の下伸びたいやらしい顔が焼けちゃうよ!」
「伸びてへんわ!」


岳人は突然バッと手を離すと、不機嫌そうに忍足を奥の席に押し込んで、その隣に座った。


「お前、俺ほっといて何してんだよっ!」
「わたしの事放っておいたのは岳人じゃん』
「・・・漫画が面白すぎるのが悪ィんだよ」」


岳人はワケのわからない言い訳をして、そっぽを向いた。
そして、気まずそうにステーキをもそもそ食べている忍足から肉を奪い取る。


「岳人わたしの事見もしないんだもん。話しかけても”うん”しか言わないし」
「悪かったって」
「悪いよー。ほんと悪いよ」
「でもよ!悪いのは俺だけじゃねーだろ!?」
「えー?」


わたし何か気に触るような事したっけ、と考えてみるけれど、わからない。
・・・もしかして、自分だけご飯に連れて行ってもらえなかった事をすねている?
でもそれも岳人が話を聞かなかったのが悪いと思う。一回誘ったもん。


「自分だけ仲間はずれなのが寂しいのね、岳人」
「仲間はずれっつーか・・・」


岳人はまたそっぽを向いてしまった。なんだか顔が赤い。


「お前も鈍感やなぁ、


忍足はやれやれ、といったポーズをしてから、小ばかにしたようにフッと笑った。
ちょっとイラッときて、またステーキを取ろうとするけど、今度は避けられた。


「何!」
「岳人は俺にヤキモチ焼いとんねん」
「・・・え?」
「ばっ!バカ、侑士!黙ってろっ」
「こっから先は自分で言えるんか?」
「何言ってんだよっ!」
「もうめんどいわぁ。さっさと言うてもうたら?」
「それは俺が決める!」
「俺が言ったるわ」
「余計な事すんじゃねー!」


岳人と忍足はケンカを始めてしまった。一体何が・・・?今度はわたしが仲間はずれだ。
しょぼくれながらハンバーグを貪っていると、忍足がいきなりテーブルの向かいからわたしの両肩を掴んだ。


「わっ、びっくりした!何するの!」
「ええか。真面目に聞けや。ビビんなや?」
「やめろ侑士!」


岳人は必死で忍足の肩をぐいぐいと引っ張っている。
一瞬、わたしと目が合った。ひどく嫌そうに眉をしかめる岳人。・・・わたしが邪魔だとでも言いたいのかな?


「岳人。わたしが邪魔なのね。でも、最初に忍足と食事をしていたのはわたしだよ」
「ちげーよ・・・」


岳人はいきなりしょぼくれてしまった。一体なんなんだろう・・・。
岳人が悲しいなら、わたしも悲しい。どうしたらいいのかな、って。俯いた瞬間。


「岳人、お前の事好きなんやって」


忍足が爆弾発言をかましました!岳人は顔を真っ赤にして、目をいっぱいに見開いて忍足を見つめている。
わたしも多分同じ顔をして、忍足を見ているんだろう。


「お前ら、顔真っ赤やで」
「ううう、うるせーんだよ!ワケわかんねー事言うな!ワケ、わかんねーよな!?な、!」
「いや、わかるけど・・・」
「わ、わかんのかよ」


岳人はあきらかに動揺している。わたしも動揺しているから、人の事言えないけど・・・!
忍足の言った事は本当なんだろうか。岳人の顔が赤い。けど、これは本当の事を言われて顔が赤いのか、からかわれて顔が赤いのか・・・どっち?
わたしは気になって気になって仕方がなかった。もういいや。覚悟を決めた。


「わたしは岳人が好きだよ」


そう言った瞬間、忍足の口があんぐりと開いた。何言ってるんや、コイツ?とでも言いたそうだ。
岳人は表情変えずに、小さくため息を落とす。


「さっき聞いた」
「・・・は?」


さっき・・・?何だって!?


「岳人!聞いてたの!?」
「なんとなくは」
「なんとなく、って・・・!すごい緊張したのに!」
「ウソつけよ!お前、俺が聞いてないってわかってて言った感じだったろ、あれ!」


岳人には、あの時若干は意識があったらしい。漫画の方に大幅に偏ってはいるけど!
わたしはふと思い出した。同じ部屋で、岳人の後ろで、思いっきり下着姿になりながら着替えてしまった事を。


「岳人・・・見た?」
「は?何が?着替え?」
「やっぱり見てるし!」
「しょうがねーだろ!後ろであんなんされたら誰だって見るっつーの!」
「岳人ってやらしい!聞いてないふりして聞いてたりとかさ!見てないふりして見てたりとか!」
「や、やらしい!?俺はお前の事いつだって見てるし、聞いてる!なんつーか、好きだから!?」


何故疑問系。でも岳人も、どうやらわたしの事が好きらしい。けど、岳人は告白が下手だと思う。
なんかストーカーみたいな言い方だ。


「岳人、お前なぁ。愛してる、とか。もっとまともに言えへんのか・・・?」
「何が不満なんだよ!好きだって言ったじゃねーかよっ!」
「そうやって照れてキレ出すのが格好悪いねん!もっと男は余裕をやなぁ・・・」
「めんどくせーんだよ、侑士は」
「なんやて!?お前には愛の語り方をみっちり叩き込んだるわ!ほら、言うてみい。ア・イ・シ・テ・ル」
「うわー忍足気持ち悪い」
「マジできめー」
「・・・俺帰るわ・・・」

「「帰れ帰れ」」


二人で手でしっしっ!ってすると、忍足はショックを受けたような顔をして、すごすごと帰って行った。
帰る前に伝票握らせようとしたら、岳人が急いでオムライスとパフェを追加注文していた。ちゃっかりしている。そうそう、忍足は邪魔なんだよ。
これから岳人と愛を語り合うんだから!


「ほら、岳人!言ってみなよ、あーいーしーてーるーって!」
「お前も気持ち悪いんだよっ!」





(20110912)