strong light






「ミソミソ!もっと跳んでミソ!」
「てめっ・・・絶対ぇ俺の事バカにしてんだろ!」

最近のマイブームは岳人の物真似!岳人は似てないって怒るけど、正レギュラーからは好評です。

「クソクソゆうしー」
「誰がクソクソや」

続けて物真似をして遊んでいると、後ろから頭を軽く叩かれた。振り返ると、そこには侑士本人が。

「あ、今のは岳人の真似。似てるでしょ?」
「似てねーって!」
「岳人ってばミソのくせに生意気」
「意味わかんねーんだよ!」

ガーガー言い合ってても、岳人とは仲が良い。
同じクラスだし、家も近いし。侑士も一緒に仲良しだから、よく三人で遊んだりとかしていた。二人とも、一年生の時からずっと仲良し。
親友ってヤツだ!と、わたしは思っている。

けど、最近侑士の様子がおかしい。具体的に言うと、付き合いが悪い。
それに加えて、いつもイライラしている。この間、偶然告白されてるの見ちゃったから怒ってるのかも。
っていうかその子と付き合ってるんだろうなぁ、と思う。侑士が好きそうな足が細くて綺麗な女の子だったから。
やっぱり友達より恋人を優先したいんだろう。ずっと三人で仲良くしてきたから、侑士がいないと寂しい。岳人と二人じゃツッコミ役がいなくてボケっぱなしだし。
と、そういう事ではないんだけど・・・なんていうか、とにかく、寂しい。

「おい!聞いてんのかよ、!」
「あ、ごめん考え事してた」
「今日の帰り、飯な!」
「はいはい。侑士も行くでしょ?」
「・・・すまんけど、俺用事あんねん」
「あー・・・だよね。ごめんね」

やっぱりだ。今日は彼女と帰るんだ、きっと。岳人は別に気にしてないみたいで、今日の帰りは何を食べるか迷っていた。










「あ!それ俺が焼いた肉だろっ」
「また焼けばいいじゃん。・・・ねぇ岳人」
「なんだよ」

岳人はいつも通り。・・・わたしはいつも通りじゃないと思う。
だって岳人と二人で焼肉しても、なんか味気ないし。大体二人なのに、何で焼肉?ファミレスとかでいいじゃん。
岳人のバカ。網に乗っている肉が一人分少ないだけで、わたしはなんだかひどく寂しくなった。
そこに岳人が、自分の分だけ肉を敷き詰め始める。やけに網が広く感じる。

「侑士、最近付き合い悪いよね」
「・・・そうか?」
「え?」
「昨日は俺と帰ったぜ。マック奢ってくれた」
「・・・えー」

昨日と言えば、わたしは跡部に用事を言いつけられてて帰るのが遅くなったんだ。
久々に三人で遊びたかったな・・・残念。

「ついこの間も一緒に帰って・・・あ、お前風邪引いてた時」
「・・・そう」

なんかおかしいと思った。侑士、わたしだけ避けてない?
その後話を聞けば、岳人は結構な割合で侑士と遊びに行ったりしているらしい。
なんで誘ってくれないのかと聞けば、丁度わたしがいなかった、ばっかり。・・・やっぱり・・・避けられてる。

「・・・侑士と、もう一ヶ月くらい遊んでない」
「え!嘘だろ!」
「ほんと。最後に帰ったのも一ヶ月前くらいだし・・・岳人もいたじゃん」
「あー・・・そういや最近三人でいる事って、ねーよな」
「わたし、侑士に彼女が出来たんだと思ってたんだけど」
「それはねーよ。アイツ好きな女いるもん」
「えぇっ!?」

初耳だった。なんで岳人にだけ言って、わたしには教えてくれないの!
侑士はもしかしたら前からわたしの事、あんまり好きじゃなかったのかもしれない。
だから岳人にだけ相談して・・・わたしには、大事な事何も話してくれない。いつも。

「・・・わたし、侑士に嫌われてるのかなぁ」
「なんでそうなるんだよ、バカ」
「だって侑士、岳人にだけそういう事言ってさ、ずるいよ岳人。クソクソ岳人って感じ」
「お前なぁ・・・男同士じゃなきゃ言いにくい事もあんだろ」
「・・・そっか・・・なんか寂しいなぁ」
「お前の話なら俺が聞いてやるよ」
「じゃあ最近出たプリクラの機種の事なんだけど」
「そういうのはわかんねー。別の話にしろよ」
「・・・二人だけ男でずるいよ」
「・・・そればっかりはしょうがねーだろ」

結局その後、グチグチと岳人に愚痴をこぼし続けた。
いつの間にか肉はなくなっていた。岳人は帰り際に「お前のせいで飯がまずかった」と言って帰って行った。
仕方ないから奢ってあげた。・・・本当は、わたしも、あんまりおいしいと思えなかった。多分、侑士がいないから。
侑士が、わたしの事避けてるって、気付いたから。





「はぁ・・・」

携帯をベッドに放り投げて、自分も一緒にベッドにダイブした。
本人に聞くのはこわかったけど、ずっとこのままの方が嫌だ。そう思って、勇気を振り絞って侑士に電話かけたのに。
侑士、絶対無視してるんだ。だって先から10分おきにかけてるのに一向に繋がる気配ないもん。変。
もう一度起き上がって、今度は岳人に電話してみる事にした。

“なんだよ”
「あ、出た・・・」
“そりゃ出るだろ。で、なんだよ?”
「・・・出るよね、普通」
“お前・・・なんかあったのか?”
「・・・侑士に急用があるのに、電話に出てくれないの」
“・・・そうかよ”
「岳人からも連絡してみて、くれませんか・・・」
“お前・・・なんか暗くね?”

岳人の明るい笑い声が聞こえる。暗くもなるよ・・・。
ていうか、これで侑士が岳人からの電話には出るんだったら本当に切ない。

「・・・とにかく、よろしく。じゃ」
“おー”

ブツリと音を立てて切れる電話。きっと電話は来ないと思う。
侑士は頭いいから、岳人に適当な理由つけたりごまかしたりしてわたしを無視するんだ。
待ってるのもバカらしい!わたしはどんどんイライラしてきて、枕に八つ当たりして寝る事にした。枕を手に取りギュッと力を込めた瞬間だった。

電話が、鳴ってる!

「も、もしもし!」


画面も見ずに慌てて出てしまったけれど、それは間違いなく侑士の声だった。
今日、部活中に聞いたはずの声なのに、いやに久しぶりに聞いたように感じてしまってひどく寂しい。
わたしは涙をこらえながら、声を絞り出した。

「侑士、あのね・・・」
“お前、ちょぉ外出れるか?”
「・・・え?」
“お前ん家の前の公園あるやろ。そこ来て”

それだけ言って、答えも待たずに電話は切れた。別に断るつもりなんてなかったから、勝手に電話を切った事に関して文句はない。
急いで簡単なワンピースに着替えて、家を出た。公園は玄関のドアを開けたところからもう見える。
ベンチに一人、寒そうにしてマフラーに口まで埋めている侑士が見えた。

「侑士っ!」
「・・・お前、その格好寒ない?」
「平気」
「で、何か用事あったんやろ・・・?」
「うんっ、うんっ、侑士・・・」

わたしは、どうしてわたしを避けるの?って。ただそれだけを聞きたいだけだったのに。
喋りだそうとすると、目から涙がぽろぽろ流れてくる。うまく喋れなくなって何度も侑士の名前を呼んだ。

「侑士、侑士・・・」
「・・・落ち着き。な?」

肩にふわりと暖かい感触。
滲んだ視線の先に独特の黒色の生地が見える。侑士がいつも着てるパーカー。
・・・かけてくれたんだ。どうしてそんなに優しいのに、わたしを避けるの。

「侑士・・・」
「何?」

侑士の優しい声。わたしは頑張って涙を飲み込んだ。

「岳人はずるいと思うっ・・・」
「・・・そうなん?」
「そうだよ。だって、岳人だけ侑士と帰ったりとかさ、好きな女の子の話したりとかさ、ずるい、じゃん・・・」
「・・・悪かったな」
「悪いよっ・・・わたしにも、そういう話してくれたって、いいじゃんっ」
「お前には話せへん」
「・・・なんでっ!」

やっぱり侑士、わたしの事嫌いなだけじゃん!喉まで出かかった言葉は、侑士が止めてくれた。
暖かかった。侑士が、わたしを抱きしめている。わたしは何が起こったのかわからなくて、侑士の腕に手をまわした。・・・震えてる。

「侑士・・・?」
「言えるわけないやん・・・お前の事や」
「・・・え?」

「俺の惚れてる女・・・お前やねん」





わたしは今、さぞかしアホ面を引っさげているんだろうと思う。
でも、侑士にはその顔が見えてないから良い事にする。わたしは返答に困って、ただ口を開けている事しか出来なかった。

「なんか言えや。照れるやろ」

少し体を離したせいで、侑士の顔がよく見えるようになった。
侑士は本当に照れたような表情をしていて、わたしのおでこに自分のおでこをコツンとぶつけた。

「侑士・・・わたしの事嫌ってたんじゃなかったの・・・?」
「アホか。めちゃくちゃ好きや・・・」
「・・・なんでわたしの事避けるの」

ぶわっと涙がこぼれる。侑士に避けられるって事は、わたしにとってひどく悲しい事で大問題だった。

「・・・岳人」
「え?」
「最近な、岳人とお前が仲良う話してんの見るとめっちゃムカつくねん」
「・・・は?」
「なんやねん・・・笑いたきゃ笑えや・・・」
「・・・笑わない」

情けない顔をした侑士がいやに可愛くて、わたしは侑士の頭をよしよしと撫でた。
侑士は眉を下げたまま、大人しく頭を撫でられている。

「侑士、なんでもっと早く言ってくれなかったの」
「・・・何がやねん」
「もっと早く好きって言ってくれたって、いいじゃん・・・」
「・・・今更、言えへんやろ・・・こんなに仲良うなってしもて、どうしようかと思たわ」

確かに、わたし達は仲良くなりすぎて、そんな事今更言えなかったのかもしれない。
現に、わたしだって言えないでいた。

「・・・ごめん、侑士」
「・・・いや、わかっとったから。悪かったな、いきなり」
「あ、違うの。わたしも侑士の事好きなの。今になって言ってごめん・・・」
「・・・は?」
「ちょっと!ちゃんと聞いててよ!恥ずかしいから二回も言えないよ・・・」

侑士の反応を見たくて小さく顔をあげた瞬間、侑士に腰を抱き寄せられていた。
気付いた時には腕の中。顎を引き寄せられて、わたしの唇は侑士の唇に重なっていた。
離れた時には、やっぱり侑士の顔は赤かった。多分、わたしの顔も同じ。侑士と同じ。

「・・・あんま可愛い事言わんといて」
「ごめんね、侑士。今更だけど大好き」
「もっと早う言えっちゅーねん、アホ」

そう言って軽く頭を叩いてくる侑士。
言葉の割りに顔は嬉しそうで、わたしはなんだかすごく幸せだった。






(20091015)「親友のために身を引く俺ってかっこよくね?」