「あーしんどー」
ぱたぱたとワイシャツの裾を仰ぎながら、椅子にぐでーっと座っている忍足。
投げ出している長い脚や、囁くような声は流石だと思うけど・・・。
「詐欺だ・・・」
その一言に尽きるとしか言いようがない。
付き合う前は、もっとクールで男らしい人だと思っていた。
今のこの姿を誰が想像しただろう、と眉を寄せるばかりだ。
忍足とは少し離れたところにいるけど、わたしにコソコソ話をするように、向日が耳元に口を寄せる。
「な、だから言ったろ!侑士はお前が思ってるようなのじゃねーって」
「岳人の言う事、素直に聞いておけば良かっただろ」
内緒話のはずなのに、隣にいた宍戸には丸聞こえだったみたい。
宍戸はおかしそうに笑ってた。
「別に、後悔はしてないよ」
「嘘だろ」
あれだぜ、あーれー、と向日は忍足を指差す。
もっとひどい状態になった忍足が、椅子からずり下がってお尻を打った。
低い声で「んあぁっ、いたぁ」と言っていたけれど、近くにいた誰もが反応すらしなかった。
「・・・してないよ」
「本気で言ってんのかよ」
忍足と付き合いだした当初、一番最初に「信じらんねえ!」と声を上げたのは宍戸だった。
近くに跡部がいるのに、忍足の方がいいという気持ちが理解出来ないと宍戸は今でも不思議そうにしていた。
「だって、忍足が好きだもん。どんなのでも」
「それ、侑士の前で言ってやりゃいいのに」
「ばか!言えないよ!」
こういう事だとか、お尻摩ってるところすら格好よく見えるだとか、そんな事は本人には言えないよ。
むしろ素が見えてからの方が、もっと好きになったとかは、向日にすらも言えない。
痛そうに腰の辺りを摩っている忍足が、こっちに来て、わたしに向かって微笑みかけた。
「帰ろか、」
「うん」
「なーにダラけた顔してんだよ、お前」
「なっ、余計な事言わんと!」
「そんな顔!」
声を上げたのは同時だった。向日、今どっちに言ったんだろう・・・。
忍足と二人で口を抑えるおそろいのポーズをとりながら、向日の方を見ると、呆れたように笑われた。
「両方に言ったんだよ、二人して幸せそうな顔してるからマジ腹立つ」
その日の帰り、忍足は初めてわたしの手を握ってくれた。
そして「岳人は男前やんなぁ」と何気なく呟いたから、わたしもこくりと頷いて同意をした。
(20111015)