毎週水曜日、必ずあの時間、あの席に座ってるあの人。










最初は男なのにラブロマンス・ラブコメディなんて見るんだ・・・なんて思ってた。
わたしもまた、いつもの、決まったあの席に行く。丸メガネさんの一段下の席。

いつもより早く着きすぎたから、まだ予告すら始まっていなかった。館内も明るい。
いつものように携帯の電源を切りじっと待つ。今日の映画はあらすじを見たけど、物凄く面白そう・・・!

すると背中から、ガンッと蹴られたような衝撃が走った。


「え?」


反射で後ろを振り向くと、丸メガネさんが申し訳なさそうな顔をしていた。


「堪忍な・・・足組もう思ったら勢いよくぶつけてしもた」
「あ、大丈夫です!気にしないでください!」
「すまんなぁ、ありがとう。お嬢ちゃんいつもおるけど映画好きなん?」
「はい。恋愛系の映画が大好きで・・・」
「俺もやねん。今日の映画・・・」


そう言って丸メガネさんが言いかけた瞬間、映画館は暗くなり予告が始まった。
お互いに「しー」と人差し指を唇に当てる。

私は前に体勢を向きなおして映画に集中する。予告もちゃんと見たい派だ。










きっちり最後のエンドロールまで見る。映画館が明るくなるまでは決して席を立たない。
今回の映画、賛否両論あるとは思うけど・・・私はすごく好きな作品だったな・・・!

余韻に少し浸り、映画の内容をまた頭の中で整理して、ふぅと呼吸してようやく立ち上がる。


「お譲ちゃん、お茶せぇへん?」
「あ・・・はい!ぜひ」


館内を出て、ようやく自己紹介をした。


です。」
「忍足侑士言います。侑士でええよ」


カフェまでの道のりで新たに分かったことがある。
わたし達は同い年で学校は違うけど、映画・小説の趣味が物凄く合うってことだ。

それに、お互いが水曜日にあの時間、あの席に座っていた。


「わたし、侑士くんのこと“丸メガネさん”って心の中で呼んでたの」
「『あ、あの丸メガネさんまたあの席にいる!』こんな感じか?」
「あはは!そうそう、そんな感じ!」
「俺がちゃんのこと心の中でなんて呼んでたと思う?」
「えー・・・?何だろう??」

「“ええ香りの子”」

「 !? 」
「やっぱり・・・シャンプーの匂いやな」


侑士くんはわたしの髪の毛を触る。びっくりして顔に熱を帯びる。


「おっと、すまん。」
「い、いいの!」


すると侑士くんはポンポンとわたしの頭を撫でた。心地良い。
存在は知ってたけど、話すのは初めてなのに心地良いなんておかしいよね。


「今日の映画おもろかったな。俺ああいうのめっちゃ好きやねん」
「わ、わかる・・・!男の人が言った最後のセリフ、すごく素敵だったよね!」

「涙堪えるのに必死で見てへんかったわ」


「えーー!!?」


侑士くんは私のリアクション一つ一つに嬉しそうに笑う。からかってる!
それにつられて私も思わず笑顔になってしまう。


「もうこんな時間か・・・早いなぁ」
「え、もう?」
「外も暗いわ。危ないし送ってくで」
「・・・じゃあ、お言葉に甘えて」


断ろうと思ったけど、侑士くんともっと一緒にいたい気持が勝ってしまった。
私の家が段々近づいてくるにつれて口数が減っていく。あぁ、もう着いちゃう。


「・・・氷帝の近くに住んでるんやな」
「あ、うん。可愛いよね、氷帝の制服。」


侑士くんと同じ学校に通いたかったな。なんで公立にしたんだんだろう・・・。
もしかしたら同じ教室で同じ授業を受けてたかもしれないのに。


「でもなぁ、同じ学校に通ってて生活してたら・・・ただの友達で終わった気がすんねん」
「・・・え?」


優しく包み込まれるように抱きしめられた。

耳元で、侑士くんが呟く。


「“俺のものになって”」


涙堪えるのに必死で見てなかった、って言ってたのに・・・嘘つき。





水曜日、必ずあの時間、あの席に座ってるあの人。
ちょっと変わったことと言えば・・・私の座席が変わったことぐらい。







(20131110)