Let's study!




「ヒィィィ!」
「何その声?」


こ、こんにちは!私はごくごく普通の中学2年生、その名もです!
今日は英語の補習なんだけど、サボって帰っちゃえ☆と思って教室出たら、とんでもない人に出会った。
その人物とは・・・幼馴染の鳳長太郎くんです。ニコニコしてます。そりゃもう女ならコロッとやられちゃうような素敵な笑みでございます。
だけど私にはそんな風には見えなくてですね!むしろ超コエェんですけどね!!
とりあえず私の頭は“逃げろ”っていう信号が常に出ています。ピコーンピコーン言ってます。
なので、私は長太郎に背を向けて逃げようとしたけど、首根っこ捕まれて敢え無く失敗。


「どこ行くの?」
「や、ちょっとお手あr「鞄持って?補習は?」
「ほ、ほしゅう?あ、ああ英語の補習のことかなっ!?」
「うん。で?何で補習?」
「え、えへへへ・・・テストで赤t「勉強した?」・・・し、して・・・」


正直にしてないって言おうとしたら、長太郎の真っ黒いオーラが更に黒くなってしまって、私はごくりと喉を鳴らす。
こ、こわひ・・・こわひよ・・・・・・こ、コロサレル・・・・・・っっ!!!
もはや闇と化している長太郎の背後に、私はもう何も言えなかった。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・ひたすら心の中で謝っていると、長太郎ははぁとため息をつき、私の腕を引くと教室へ入る。


「サボったらますますバカになるの分からない?」
「す、すみませ・・・ていうかバカって言ったよね?」
「何?」
「いえっ!」


わたしが自分の席へ座ると、長太郎はその隣の席の椅子を引き摺ってくる。
肩が付きそうなくらいの距離に長太郎がいて何かドキドキするな・・・ていうか何で横?
普通前じゃない?まぁいいか・・・だって長太郎普通じゃないし。


「早く補習プリント出して。仕方ないから手伝ってあげるよ」
「・・・・・・・・・頼んでないし」
「言いたいことがあるなら腹の底から声出せよ」
「長太郎に手伝ってもらえるなんて超心強いC〜〜〜!!!」


胃に穴が開きそうです、ママ。もしそうなったら医者の息子の忍足先輩に助けてもらおう・・・。
って、ちょ!めっちゃ見てる!長太郎がすっげぇ私のこと見てる!
ていうか睨んでるっ!何で?私なんかした?!鞄からプリント出しただけだよ!?


「・・・な、何?」
「今何考えてるのかなって思って」
「胃に穴が開いたら忍足先輩に助けてもらおうって考えてた」
「ふーん・・・・・・・・・ほら、早くやりなよ」


机の上のプリントをトントンと指で叩くと、長太郎はそう言った。
私はシャーペンをカチカチと鳴らすと、順番に問題を解いていく。英語って嫌いじゃないんだけどなぁ・・・嫌いじゃないけど面白くないんだよね。
文法とか意味わかんないし。ホント日本の英語教育は間違ってるよね。
そんなことを考えながら、プリントにペンを走らせる・・・が、それはピタッと止まる。


「・・・・・・・・・・・・くっ」
「・・・何?」
「これ・・・カッコの中何入るの?」

問題はこれだ。

I(   )(  )you(  )( )(  )(  ).(お久しぶりです)


訳短くない!?意訳しすぎっっ!!「お久しぶりです」をヒントにカッコこんなに埋めなきゃいけないとかありえない!!


「1回しか言わないよ。I haven't seen you for a long time」
「え?ぱーどぅん??」
「1回しか言わないって言ったよね?」


発音よすぎて聞き取れぬ!!そして早いっ!いや、待て私。
落ち着いてさっきのを思い出せば何とかなるかもしれない。
あい・・・はぶんと・・・・・・しーゆー・・・・・・・・・ふぉーあろんぐたいむ!!!


「どうだ!」
「惜しい。seeじゃなくてseenね。罰ゲーム」
「え、罰ゲームってナンデスカ?」
「ほらまだあるんだからさっさとやれ」
「ううっ」


ひどい・・・罰ゲームって何?何されるの?
車の後ろにロープで縛られてそのまま80キロくらいで走行されたりするんだ・・・それを、引き摺り回しの刑という。
やだやだいーやーだーーーー!!!


「痛くない?」
「は?」
「罰ゲーム!」
「・・・・・・痛いのがいいんだ?ってMだね」
「そういう長太郎はドSだね」
「知ってる」


認めちゃったよ。
もう何も言い返す気になれなくて、私はひたすら英語のプリントと格闘する。と、そこに誰かが来たようで、教室の扉がガラッと開いた。
見るとそれは学年で一番の美少女と言われている吉野さんだった。
ちなみに同じクラスである。私と比べたらそれはもう、月とスッポンだ。
女の私が見てもうっとりするようなその美貌。
ああうらやましい・・・。しばらく彼女に見惚れていると、長太郎は足をガンッと蹴飛ばしてきた。
見事に弁慶の泣き所にクリーンヒットして、一瞬息が止まる。おおおおおいってぇえええ・・・・・・っ!


ちゃんに鳳くん・・・何してるの?」
「いやっ・・・英語の補習を・・・手伝ってもらってるんだけど・・・脛いてぇ・・・」
「そうなんだ」
「吉野さんはどうしたの?」
「私は忘れ物取りに来たの」


そう言って吉野さんはロッカーからノートを1冊取り出した。
見たところ数学のようだ。そういえば明日小テストするって言ってたような・・・・・・。


ちゃんがんばってね。鳳くんも」
「ありがとう」


ようやく脛の痛みが取れてきた私は、ふぅと息を付く。死ぬかとおもったZE☆にしても、今の長太郎のキラキラスマイルは素晴らしいね!!
さっきまで私に見せてた表情が嘘みたいだよ。これが裏表ってやつですな。コワイコワイ。
吉野さんは手をヒラヒラさせて教室を出て行った。


「吉野さん可愛いなぁ・・・私もあんな美少女に生まれてきたかった」
「何言ってんの」
「長太郎だってカッコイイし。私の周りは美男美女ばっかり」


一人普通過ぎてなんか浮いてるもんねーまぁ普通が一番だけど。
相変わらずたくさんの英文と戦いながら、そう呟いた。と、次は長文の訳で躓いた。
長いなこれ。3行もあるけど嫌がらせ?こういうのって訳してみれば1行にも満たなかったりするんだよね〜私はううんと唸ると、電子辞書を取り出そうと鞄に手を伸ばした。


「っわ!?」


すると、その腕は長太郎に捕まれてしまう。
真横にいる長太郎に目を向けると、黒いオーラは何処へやら。
何故かちょっと照れ気味の幼馴染が目の前にいた。


「ど、どしたの?」
さ・・・そういうのって誰にも言ったりしてるの?」
「え?そういうのってどういうの?」
「カッコイイとか」
「え?ああ・・・まぁそうだね。だってほら長太郎の友達の日吉くんとかも・・・」


次の言葉を発しようとしたけど、それは長太郎によって阻まれた。触れるだけだったけど、それは確実にキスだった。


は俺だけ見てればいいんだよ」


長太郎の真剣な瞳に私は何て言っていいか分からずに、ただ顔を赤くするだけだった。
ていうか、これって告白?長太郎って私が好きなのか!?


「長太郎って・・・私のこと」
「好きだよ?何か文句ある?」


いや、ないけど。ていうか何でそんな上から目線?
告白なのに全然甘くないよ!ホントに好きって思ってくれてるのか微妙だよね。
キスだって実はからかってたりして。ありえる・・・だって長太郎だし。
あ、英語のプリント・・・長文訳さなきゃ。これやればもう終わりなんだよね。
私はとりあえず長太郎をスルーして鞄から、辞書を出して分からない単語を引く。
ふむふむと一人納得していると、隣からはぁとため息が聞こえてきた。
ん?と見上げると、長太郎がうな垂れているではないか。


「あのさ・・・」
「ん?」
「・・・・・・まぁいいや。先にプリントやっちゃえばいいさ・・・」


何か話し方変わってる気がするけど気にしないでおこう。
とりあえず今はこの長文だ。・・・。・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・あーもうワカンネ。
適当でいいや。先生許して!!


「よっしゃできた!」
「最後適当じゃない?」
「あ、バレた?」
「・・・・・・もう・・・ほら貸して」


長太郎にプリントを渡すと、ペンも、と言われてシャーペンも渡す。
私の書いた長文の訳を消しゴムで消すと、スラスラとそれを訳していく。
え、そんな意味だったんだ・・・全然違うじゃん。辞書まで引いたのにどういうこと。
でも!長太郎のおかげで長文っていう難問もクリア〜♪


「ありがとー!!」
「じゃあさっきの続きね」
「さっき・・・?」
「忘れたなんて言わせないけど?俺の告白スルーしといて」


あ、やっぱり告白だったんデスネ・・・。
口元を歪ませる私を長太郎はどこか呆れたように見ていた。


「それでは俺をどう思ってる?」
「どうって・・・」


私は長太郎をどう思ってるんだろ・・・小さいときから一緒にいて、いつも私に優しくしてくれてた。
私の前では声のトーンが違ったり、目付きが鋭くなったり、ドSだったりするけど・・・それでも長太郎はいつだって私を助けてくれる。
私を守ってくれる。


「好き。」


長太郎のことは大好き。


「恋かは、分かんないけど・・・」
「そ。いいよ、それで十分。嫌いって言われるより断然いい」
「嫌いなんて言うわけないよっ!私は長太郎がいつも隣にいてくれなきゃ不安だもん」


いつもいてくれて当たり前って思っちゃだめかもしれない。
でも、私はずっと長太郎に隣にいてほしいし、これからずっと甘えたいって思う。
他の誰でもだめなの。長太郎じゃなきゃ・・・・・・・ってあれ?


「なんか・・・分かんなくなってきた」
はまだまだ子供だね。ま、そんなに焦らなくてもすぐに答えは見つかるかもね」
「え?」


重なった唇からは、長太郎の体温が伝わってきた。
さっきよりはちょっとだけ長かったけど。それにしても全然いやじゃない。
むしろ嬉しくて、自然と頬が緩んじゃったりして。
そんな私の表情に長太郎は気付くこともなく、英語の補習プリントを持って席を立った。
彼なりに照れているのかもしれない。ここで冷やかしたりしたら後が怖いから、何も言わないでおくね。
顔が赤いのも夕日のせいってことにしとくよ。私は鞄を持って、そんな長太郎の背中を追いかける。


「待って!」
「誰かのせいで空真っ赤なんだけど」
「ご、ごめん・・・でも助かったよーありがと!」
「・・・・いいけど」


笑う私とは対照的に、長太郎はぷいっとそっぽを向いてしまった。
二人並んで歩く廊下は、何となくいつもと違った風景に見えた。
それは隣にいるのが少しだけ特別になった長太郎のせいかなってひっそり思った。


「この後は罰ゲームだから」
「え゛」





(20090716)