birthday gift





「ズバリ欲しいものは!?」
「羊。生きてるやつ」
「・・・・・・・・・」


ハ●ジと一緒にアルプスの草原にでも行って来て下さい。ってハ●ジは羊じゃなくて山羊だよね。もうこの際どっちでもいいや。


「・・・羊以外は?」
とチュー。あわよくばその先まで」
「却下します」
「じゃあ生きてる羊」


この子と話してても前に進みません。堂々巡りです。もういいや。
生きてない羊買ってきてプレゼントするよ。生きてる羊は私じゃ無理だわ。それはあの金持ちのお友達に頼んでください。


「あ、もうこんな時間だ。私帰るね」
「えー帰っちゃうの?」
「だってお腹空いたもん」
「いいじゃん。今日はうちで食べて行きなよ」
「ん〜・・・やっぱ帰るよ」


すごく今更だけど、私とジローはお隣さん同士です。
所謂幼馴染というやつ。だから誕生日だって毎年お祝いするし、プレゼントだって渡す。けどそろそろネタ切れ。何渡していいか分からない。
だから本人に直接聞いたら、生きてる羊とか言い出すし。しかもさっきはチューなんていう笑えない冗談まで・・・勘弁してほしいよ。
だって私はホントにジローが好きなんだもん。でもジローには彼女がいっぱいいるらしい。ほとんどが自称だけど。
そんなんで私は未だにこの想いを伝えられずにいるのです。だからさっきのような冗談はすごく心臓に悪い。


「プレゼントさぁ」
「うん」
「やっぱりがいいな」
「んん?」
「だーかーら、がいいの」
「はぁ?」
「俺さぁが好きなの。女の子として」
「ええ!?」
「幼馴染やめて、恋人になろうよ」


ベッドで枕を抱きしめてごろごろしながらジローはそう告げた。
これはあれか。告白ってやつですか。何ていうかもっとこう・・・・・・ロマンチックな展開はないんだ?


も俺のこと好きでしょ?男の子として」


分かりきったような口調でそう言うジローに何だかムッとする。
だから私はぷいっとそっぽを向くと、そんな訳ないじゃん、と素直にならなかった。と、いうよりなりたくなかった。
だってごろごろしながら告白だよ?そんなの認められるか!!!


「嘘」
「嘘じゃないもん」
「そっか。ならいいや」


ならいいや、だとぉ!?素直にならなかった私も悪いけど、ならいいやはないでしょーがっ!!おちょくってんのかあっ!!!


「ジローのばーかっ」


私は足元に置いてあったクッションをぽすんっとジローの頭にぶつけて部屋を出た。
そしてそのまま隣の自分の家に帰り、部屋に閉じこもる。窓から見える彼の部屋。それを遮断するようにカーテンを閉めた。
そしてあれから数日が経って、今日はジローの誕生日。
うっすら黄色の毛の羊のぬいぐるみを抱きしめて私は今ジローの家の前にいる。だけどいつもみたいにその家の門をくぐることが出来ず、その場に立ち尽くす。
・・・やば、何か・・・・・・入りづらいな。ならいいや。ジローのあの言葉が頭をよぎる。彼にとって何でもない一言でも、私には大きいもので。
好きな人に「好き」って言われたのに、それもやっぱいいや、で済まされちゃあ・・・ねぇ。あの時、私が素直になってればよかったのかなぁ。
なんて過ぎたことを悔やんだって仕方ないんだけどね。


「・・・帰ろ」


私は、結局その羊のぬいぐるみを抱きかかえたまま自宅へ戻った。
自分の部屋のカーテンからこっそりジローの部屋を様子を伺うが、残念ながらそれは閉ざされていて、中の様子は見えなかった。
今ここで私が彼の名前を呼べば、きっとそのカーテンは開くんだと思う。


「ジロー」

絶対に聞こえないような、小さな声で名前を呼ぶ。ううん、呟く。案の定、窓どころかカーテンすら開かない。

「ジロー」

次はさっきより少しだけ、声のボリュームを上げてみる。それでもやっぱり開かない。

「ジロー・・・・・・・・・・・・好き、だよ」


まるで自分の心に言い聞かせるようにそう言った。やっぱり、自分の気持ちに嘘付いちゃだめだよね。
ならいいや、って言わせたのは私。ごめんなさい。ジローの気持ちを踏みにじるみたいなことして、ごめんなさい。


「やっぱりそうだったんだね」


ふと、聞こえた彼の声。振り返ればそこには、大きな欠伸をするジロー。
あれ、何でここに・・・ここ私の部屋ですけど。ぽかんとしている私に近付くと、ジローは犬みたいに頬をぺろっと舐めた。


「っ!」
は俺の。で、その羊も俺の」


ありがとー、と言ってジローは私が抱きしめていた羊を奪って行った。
私はというと、ほっぺをぺろっとされたことに頭が真っ白になっていた。こんなんなら普通にキスされるほうがまだマシかもしれない。
舐めるって・・・・・・何だそりゃあ!はずい!急にはずいよ!そうして私の顔はみるみる赤くなっていく。
自分でも分かるくらいに熱かった。私はジローの背中を向けて、カーテンに顔をうずめた。


「?何やってんの?」
「・・・何もない。ほっといてください」
「ねぇ〜」
「・・・・・・・・・・・・何?」
「俺の誕生日に両想いになれたんだしさ・・・」


ぐいっと肩を引っ張られて、私の体はカーテンからジローの胸へ。
後ろからジローに抱き締められて、心臓がドキドキと大きく音を立てた。何か言おうと口をぱくぱくさせるけど、そこからは何の言葉も生まれなかった。
ああもうだめだ。嬉しすぎて死んじゃいそうだよ。


「ちゅー」
「え?」
「していい?・・・それともまた却下?」


くすっと笑うと、ジローは私を茶化すようにそう言った。
何だか大人びて見える幼馴染に、私はまた素直になれなかった。ううん、今回は敢えて「ならなかった」。


「もちろん却下」
ならそう言うと思った」


そうして笑うジローを見て、私もくすっと笑う。



「ん?」
「何か言うことあるでしょ?」


今日という日にありがとう。


「誕生日おめでとう」
「ありがと」


今まで幾度となく誕生日を一緒に祝ってきたけれど15歳を迎えた今日という日は、これから先忘れることはないと思う。
だってジローへの想いが伝わった日。ジローの想いを感じた日。
こんな大切な日を忘れる訳が無いし、忘れたくない。大好きな人の誕生日は、今日から二人の大切な記念日になった。


「俺のこと大好き?」
「うん、大好き」
「俺もが大好き」





(20090505)