「あれぇ?」


驚いて思わず声をあげてしまう。
眼前で見慣れた金髪が、ふわふわと揺れている。
あれは間違いなく、隣の席の芥川くんだ。
こんな所で何してるんだろう。もう授業始まるのに・・・あ、わたしはサボリだから、いいの。

どうするつもりなんだろう、とじーっと見つめていると、中庭の大木に目が止まったらしい。
大木に向かって元気良く走って行く。
きっと、あそこで寝るつもりなんだ。大木を枕にして寝るなんて、なんて古典的な・・・。
ちょっと寝転がるまで見ていようかと目を向けていると、向こうからくるりと振り向いた。


「あっ!」
「あ、見つかっちゃった」
さん!」


芥川くんは踵を返して、ニコニコ笑いながらわたしの方へ走って来た。
珍しく起きているらしく、近くで見ると目がぱっちりしている。


「芥川くん、授業は?」
「俺、サボリ!」
「そう、わたしも」
「マジマジ!?ラッキー!」
「えー?」


なんでだろう?と思ったら、芥川くんは「こっちこっち」とわたしの手を引いて大木の下へと向かった。
今度はわたしを連れているから、走らずに歩いて。でも急いた足取り。
大木へと辿り着くと、芥川くんはそこにあぐらをかいて座った。横をぱんぱんと叩くから、わたしもそこに座る。


「ねーねー!さん、サボって何しようとしてたの?」
「うーん、特に決めてないんだ」
「そうなんだ!じゃあ俺と昼寝しない!?」
「えー。今眠くないよ」
「んー・・・じゃあ枕になるだけでいいからさっ。膝枕!ね?」


他人が起こしても芥川くんは絶対起きないという事を、わたしは知っていた。
先生の声か、多分跡部くんあたりの声でも起きると思うけど。
それを考えると、今膝を貸してしまえば、授業が終わってお昼休みの時間になっても、わたしはお弁当にありつけない恐れがある。


「やっぱりダメ」
「えー!お願いっ!」
「ダメだよ。だって芥川くん、起きないじゃん」
「むー・・・じゃあ無理矢理寝かせちゃえ。えいっ」
「え?きゃぁっ」


芥川くんはわたしの両腕を掴むと、その場に押し倒すように私を寝かせた。
即座に起き上がろうとしても、芥川くんの腕の力が強くてぴくりとも腕を動かせない。
男の子の割りに小柄で細いと思っていたのに、この力は一体どこから出てくるんだろう・・・?


「じゃあさ、さん」
「んー!何ーもう、離してよー」


バタバタと抵抗するわたしの動きがおかしいらしい。
芥川くんは声をあげて笑うと、ずいっと顔を近づけた。


「別の意味で、一緒に寝てくれない?」
「・・・へっ!?」


別の意味・・・?それは一体・・・。考えたくないけど・・・俺に抱かれろ、って意味?
いや、まさか芥川くんに限ってそんな事は。
訝しげに芥川くんの顔を見る。
芥川くんはいつもみたいにニコニコ笑ってるだけだった。
やっぱり別の意味があるのかな?一緒に死んでくれとか?いやいやそれもあるまい。


「わかんない?ヤラして」
「は!?」


なんと!あの純情無垢(だと思っていた)芥川くんが、ヤラせろと言ってきた!
わたしは驚いてしまって何も言えずにポカンと口を開けたまま芥川くんを見ていた。

やっぱり芥川くんはニコニコと楽しそうに笑っている。

あ、わかった。


「からかってるんだね!」
「えー?俺真面目だCー」


・・・真面目らしい。一体なんなの、芥川くんって!
そう思っていると、芥川くんの手がわたしの制服の裾に伸びた。
明らかに手は上側にいこうとしている。


「あ、芥川くん!?わたしまだ返事してないよ!」
「んー、いいよ別に。だって頷いてくれなさそうだったCー」
「・・・芥川くん。人はそれを強姦と呼びます」


おへその上までYシャツをめくったところで、芥川くんの腕が止まった。
そして芥川くんはなぜか真顔でわたしの目を見つめてきた。
真顔、初めて見たけど、なんかこわい・・・。
どうしようか。何されるんだろうか。と色々考えあぐねていると、芥川くんは小さく頷いた。


「間違えちゃった」
「は?」
「ごめんねさん。こわかったよね」


芥川くんはわたしの頭をよしよしと優しく撫でると、なんと!キスをしてきました!
それも深いの。芥川くんの舌がわたしの口の中を舐めまわしている。なんだか変な気分。
抵抗しても適わない事はさっきわかったから、わたしは大人しく芥川くんのキスを受けていた。
暫くして唇が離れると、芥川くんはニッと笑った。


「あ、ごめん!ちょっとチュッてするつもりだったんだけど、つい夢中になっちゃった」
「そ、そうなんだ・・・」
「あれー、反応薄いCー」


一体、それ以外わたしに何を言えと?ていうかキスした事は謝らないんだ。
もうワケのわからない事が多すぎて、頭はパニック状態だった。


「ねぇねぇ、さん。順番間違えちゃったんだけどね」
「ん?何、芥川くん」



「俺、さんが好き!」


は?


ちょっと待って。整理させて。なんでポッキー差し出されながら告白?
膝枕して。ヤラせろよ。強姦されそうになった。間違えた。キスされた。告白された。(ポッキー付き)
本当だね。順番間違えすぎだね。


「芥川くん、ホントにわたしの事好きなの?」
「うん。いっつも寝てるふりしてさん見てたから、最近眠いんだー」
「そ、そうなんだ・・・ヤリたくてその場しのぎに言ったワケじゃないんだ?」
「ちょっとさん!」
「は、はい!」


芥川くんは珍しく怒った顔をしていた。
珍しくっていうか、初めて見た!
わたしは何されるんだろうとビクビク怯えながら、芥川くんの次の言葉を待った。


「俺、誰でもいいわけじゃないCー!」
「そ、そうなんだ?」
「うん。さんだからヤリたい!だからヤラして」


だからって何!わたしはまだ何も言ってないんだけど!
どこから突っ込むべきだろう、と考えあぐねていると、また芥川くんの手がわたしのYシャツに触れた。
今度は背中に回って素早くブラジャーのホックを外してしまった。


「ちょちょちょ!芥川くん!何してっ」
さん、お願い。黙って抱かれてくれない?俺もう我慢できない」


顔を上げた芥川くんは眉を下げてわたしを見つめていた。
なんだかそんな顔で言われると、可哀想に思えてくる・・・
って、いやいや待ってよわたし!もっと自分の体を大切にしないと!
でも抵抗して無駄な事はさっきわかったし・・・大体にして芥川くんのこの力は一体どこから出てくるんだろう・・・

と、くだらない事を考えてるうちに、芥川くんはスカートの中にまで手を突っ込んできた。

まずい!




「待って、お願い芥川くん!」




「おいコラ、ジロー!」


天の声!芥川くんの手が止まる。
誰かと思って少し頭を動かしてみると、芥川くんの後ろに跡部くんが立っていた。
これからは跡部様と呼ばせていただきます!


「あー跡部じゃーん」
「テメェ・・・昼ミーティングするっつったろ!」


昼・・・?ここから見える、校舎の時計を見ると針は正午を指していた。お昼休みの時間だ。
結局サボった意味ないくらい、疲れてしまった・・・。
と思っていると、芥川くんは目の前に跡部くんがいると言うのにパンツに手をかけようとしている!
何してるの、この子!


「えーそうだっけー?俺今忙しいから、俺なしでやっていいよー」
「俺様直々に連れ戻しに来たんだ・・・まさか来ないなんて言わないよな?アーン?」
「・・・ちぇ。でもさ、跡部。さんのブラジャー外したまんまだから、もうちょっと待ってて」


芥川くん・・・!跡部くんの前でなんて事を言うの!
顔を真っ赤にしているわたしを、ようやっと跡部くんは目に留めると、小さくため息をついた。


「おい、お前も黙って組み敷かれてんじゃねーよ」
「え?きゃぁっ」


跡部くんは芥川くんを軽々とわたしの上から避けると、わたしの腰を支えて起き上がらせてくれた。
か、顔が近い!
跡部くんはわたしの顔をじーっと見ると、ふっと笑ってわたしを離した。


「お前がジローの女か。覚えとくぜ」
「え!?ち、ちが!あの!」


否定の言葉も聞かず、跡部くんは芥川くんの腕を掴んで歩いて行ってしまった。
芥川くんは暴れるでもなく、跡部くんに引きずられている。


さん!返事、五時間目に聞くからー!」


返事・・・?
それは、告白の?それともヤラせろ、の?

もしも後者なら即刻お断りさせていただくけど、前者なら・・・ちょっと迷ってしまう。




「どっちだろう・・・?」




わたしはしばらく考え込むハメになった。







(20111111)今日はポッキーの日!