お昼休みは私にとってのエンターテイメント。
今日もドタドタ騒がしい足音が聞こえたかと思うと教室の扉が勢いよく開いた。赤い髪を揺らしながら私の真横に足を止め、偉そうにドカリと机に座りめんどくさげにガムを噛んでいる。
茶色い彼はその様子を見つめながら深く深く溜め息をついた。


「なぁジャッカル。腹減った!」
「知らねぇよ!痛っ、手を噛むな!」
「なんかよこせよ!」
「何もねぇよ!お前しかもすでにポッキー食べてたじゃねぇかよ!」
「あぁ!?あんなもんで俺が満足するとでも思ったか!」
「キレんな!こっちに怒りを向けんな!」
「あー!腹減ったぁ!」


楽しそうな会話を耳に、私は一人満足気に微笑んでいた。
同じクラスのジャッカル桑原と違うクラスだけど毎回わざわざ遊びにくる。『丸井ブン太。』二人は仲良し・・・だと思う。
ちょっと仲良しの意味が違うけど。実際ジャッカルはすごく迷惑している。それでも丸井と縁を切らないのはジャッカルが友達少ないからかな。


「うるせぇよ!友達少ない言うな!」
「あれ?声出てた?」
「気付けよ!」


ジャッカルが噛み付くように言うと丸井が横から話にはいってきた。
私がジャッカルと話せば、丸井は独占欲が強いのかすぐにジャッカルにかまいたがる。


「お、ジャッカル!友達出来たのかよー良かったじゃん!」
「だから俺が友達いないみたいな言い方すんな!」
「お前俺に感謝しろよなぁ。こうやって毎日遊びに来てやってんだからよ」
「小さな親切大きなお世話って言葉知ってるか!?」


楽しそうだなぁ・・・(主に丸井が)


「楽しくねぇよ!」
「あれ?また声に出てた?」
「顔に出てんだよ顔に!」
「あはは」
「もうやだこいつ等・・・」


ジャッカルが溜め息をつくと丸井は「幸せ逃げるぞ。もとから少ないのに」とちゃかす。
私はそんな二人を眺めるのがすごく好きだった。とても楽しいから。友達に悪趣味とかなんとか言われたりもしなけどおもしろいから何でも良かった。


「ジャッカル・・・俺さ、思ったんだけど」
「今度はなんだよ・・・」
「見ろよあれ。ほら、あそこで菓子食ってる女子」
「お前またそんなとこばっか見て・・・」
「期間限定の抹茶味のきのこの山。やばくね?マジうまそー」
「知るかよ!!」
「・・・俺が言いたいこと、分かんない?」
「・・・」


丸井は上目遣いで、しかも涙目でジャッカルに訴えかける。
そのあまりのも可愛い視線に思わず第三者の私が不覚にもときめてしまった。こんなのジャッカルだってときめくよ!ま、まさか禁断の・・・!?
私はすかさずジャッカルの方を見れば・・・なんだ期待はずれ。ジャッカルは呆れたように丸井を見てた。


「買って来いと?」
「さっすがジャッカル!よく分かってんじゃん!つーわけでシクヨロ」
「シクヨロじゃねぇよ!どこに売ってるのかさえ分かんねぇよ!」


え・・・!?突っ込むところそこ!?
ジャッカルは時々ズレてると思う。さすがラテンだわ。でも嫌々言いながら結局最後には丸井にパシられるのがジャッカル。
やっぱり今日も丸井の勝ちみたいで売ってる場所を確認するとジャッカルは財布を取り出していた(自分の)


「じゃ、行って来るから」
「おーう。昼休み後ちょっとだから早く帰って来いよー」
「うっせぇよ!分かってるよ!」
「ったく、短気な奴」


ジャッカルは泣きながら売店へと向かった。頑張れジャッカル。
気がつけば私は丸井と二人になった。そりゃそうか、ジャッカルが居ないんだもの。
よく考えれば丸井と二人になることなんて滅多にないからちょっと緊張する、かも。
なんとなく気まずいからジャッカル早く帰ってきてー!さりげなく丸井を盗み見るとつまらなさそうにジャッカルの鞄の中を探っていた。
・・・私いつも思うんだけど、丸井はジャッカルのこと大好きだと思うの。いつもジャッカルを苛めてるのは彼なりの愛情表現というか歪んだ愛というか・・・なんだかんだ言って丸井はきっとジャッカルのこと信頼してるに違いない。
丸井は私の視線に気がついたのかこっちを振り返った。そして俯きながら何か考えた後、おもむろに口を開いた。


「お前、ジャッカルと仲いいの?」
「え?んー・・・っていうか席が隣だからかな」
「ふーん」


丸井は更につまらなさそうにジャッカルの鞄の中身を全部机にばら撒く。
中から小さい飴玉を見つけたらしく嬉しそうに口の中に放り込んだ。そこで私はハっとした。顔に出てたんだろうか、丸井が怪訝そうに私を見てくる。
丸井は毎日のようにジャッカルに会いに来る。


歪んだ愛情表現


私がジャッカルと喋ってるといつも話を遮る。席が隣って単語に嫌そうな顔をした。
=ジャッカルのことが本気で好き?


「え、嘘!?やだ・・・!」
「は?何が?」
「ま、丸井・・・!そっち!?」
「・・・・・・どっち」
「まさかあの態度の中にそんな愛が隠れていたなんて・・・!」


私が一人でテンションを上げていると丸井はさも変な人を見るかのように顔をしかめた。
大丈夫だよ丸井。愛に男も女も関係ない。私、応援してるから!私が密かにエールを送っている間も丸井は意味が分からないかのように首を傾げている。
でも私、気付いた事は内緒にしとくから。ちょっと恥かしいもんね。大丈夫、誰にも言わない。


「頑張ってね・・・!」
「は・・・?」


私が丸井の手をとり、目を輝かしながらガッツを送ると丸井は呆れたように視線を向ける。
そんな中、ジャッカルが帰ってきた。


「ほら、買ってきたぞ」
「おっ!サンキュー!」


丸井のさっきまでのしかめっ面はどこかへ消え去り嬉しそうにジャッカルに擦り寄る。
やっぱり!これは確定ね!それにしても私に向ける笑顔がまるで違う。それはそれで悲しい気もする。まあ誰だって好きな人に向ける笑顔は他より特別だものね。
丸井はよくやったと言わんばかりにジャッカルの輝く頭をペチペチと叩いた。嫌そうにはするけど、決して振り払おうとしないジャッカルももしかすると丸井のことが好きなのかもしれない。
え?でもそしたら・・・!そしたら禁断の恋成立!?



「なあにジャッカル」
「・・・」


私が飛びっきりの笑顔を向けてあげるとジャッカルは酷く怯えたように肩を揺らした。
失礼!横に立っていた丸井が私を睨みつける。あ、いけない。そうだった!こんな満面は笑み浮かべたらジャッカルのこと好きみたいじゃない!
慌てているとジャッカルが私に何かを差し出した。


「お前にもやるよ」
「何これ?」
「たけのこの里、抹茶味」
「・・・!!」


ジャッカルがくれたのは丸井の言ってた、たけのこバージョン。
丸井には悪いけどすごく嬉しかった。何故かと言うと私は抹茶味のお菓子に目がないのだ。私は大事に胸にお菓子を抱えてこれまたとびっきりの笑顔をジャッカルに向けた。
・・・が、やっぱりジャッカルには怯えられただけ。丸井はというと、何かとてつもなくおもしろくなさそう。


「おいジャッカル!」
「な、なんだよ」
「ジャーッカールー・・・!!」
「痛っ・・・仕方ねぇだろ!どうせお前あげずに一人で全部食っちまうんだから!」
「今日はちげぇの!ハゲ!ハゲジャッカル!」
「こら!頭によじ登るな!」


会話の内容がいまいち把握できないけどとりあえず二人がじゃれ合うのを見るのはやっぱり楽しい。
ふと胸元に視線を下げると、緑色のパッケージが早く食べてと私を誘惑する。私は我慢しきれずにたけのこの里の封を破いて一つ口に運ぶ。
抹茶チョコのほどよい甘さが口いっぱいに広がって幸せだ。おいしい!ジャッカルにもう一度お礼を言ったら


「いいから!頼むから俺に笑いかけるな!」


と、何とも不可思議かつ失礼極まりない発言が聞こえてきた。
まあ特に気にもせずもう一粒口に投げ込む。んー!おいしい!!私が幸せに浸っていると丸井が少し乱暴めに自分の持っていてきのこの山の封を破く。
一粒取り出すと私の前までやってきた。


「やる」
「え?いいの?」
「おう」
「わ!ありがとう!」


私は丸井の手から一粒受け取るとさっそく口に入れた。
あー、やっぱり抹茶味はおいしい。私がお礼を言うと丸井は心なしか顔を赤くした。
・・・気のせいかな?あ!そうだ。せっかく貰ったんだから私のもあげなくちゃ!


「はい!たけのこ!」
「さんきゅ」
「あ、ジャッカルも!」
「・・・ジャッカル!!」
「や、俺はいいから!気にすんな!」
「そう?・・・んー!おいしい!」


ふと丸井の方を見ると、さっきよりもさらに顔を赤くしていた。
ど、どうしたんだろう。ジャッカルが隣にいるから緊張してるのかな?・・・いや、まさか。そんなキャラじゃないだろ。
丸井が一瞬こっちを向いて目が合ったかと思うと、すぐに視線をはずして小さな声で呟いた。


「・・・俺のことはブン太でいいから」
「え?うん」
「ジャッカルのことは桑原でいいから」
「え、え?あ、うん」
「おい!やめろよ!」
「あと・・・お前のことも名前で呼んでもいいか?」
「うん!いいよ」


そういったら丸井・・・あ、違う。ブン太はジャッカルに勢いよく抱きついた。
本当に仲良し。むしろそれ以上のものを感じる。ブン太は嬉しそうにジャッカルに何かを言っている。
ジャッカルも嬉しそうにブン太の肩を叩いた。・・・本当に仲良いなぁ・・・あれ?私なんか、邪魔者?そうだよ。
二人のせっかくの愛の時間を私が邪魔しちゃいけないよ!馬鹿、私!気付くの遅い!私は急いでたけのこの里の袋を引っつかむと出来るだけ二人にバレないように教室を出ようとした。
だけど残念ながらそれに気付いたブン太が、ビックリしたように声をかけてくる。


「おい・・・、どこ行くんだよ!?」
「まだ昼休みもうちょっとあんだろ?」
「・・・ごめんねブン太、ジャッカル。わたし邪魔だったね」
「「は?」」
「もう昼休み場所移すから!心置きなく愛を育んでね・・・!」
「・・・え、ちょ!待て待て待てぃ!お前なんか勘違いしてねぇか!?」
「照れなくても分かってるから。じゃあね!今まで気付いてあげられなくてごめん!」
「おい!」
「大丈夫、二人ならきっと上手くやって行けるよ!わたし応援してるから!」
「「・・・」」


自分的に今までで一番かっこよく決まったと思う。
我ながら素晴しく自然な去り方だ。一瞬見えたのはポカンと口を開けているジャッカルと、ものすごい黒いオーラに身を包んで私の方を睨んでるブン太。
そしてその怒りは瞬時にジャッカルへと向けられ、私が教室から出たのを合図に一気に爆発させるのだ。


「おいジャッカル!てっめえ・・・!!」
「ちょっ、なんで俺!?やめ!痛い痛い痛てええ!!!」


何とも情けない悲鳴と共に、今日もジャッカルの長い長い1日は続く。





(20080720)