inner feelings

「うわ、寒」

暖房がきいたコンビニから出ると、もうすぐ春とはいえ外の気温はまだまだ寒い。
日曜だというのに私は友達と遊ぶわけでもなく、ただボーっとそこら辺をブラブラしていた。どうせ今家に帰っても部屋でゴロゴロしていつの間にか寝ているというお決まりパターンだ。
自分でいうのもなんだけどなんて不規則な生活。この後の予定を考えていたらいきなり携帯がなった。メールじゃなくて電話の方だ。
めんどくさいなぁなんて思いながらディスプレイを覗くとドクンと心臓が飛び跳ねた。慌てて通話ボタンを押すと、聞きなれたダルそうな声が聞こえてくる。


「よぉ〜」
「何、ブン太」
「今何してんの？」
「んー、ボーっと歩いてる」
「なんだ。家で寝てんのかと思った」
「アンタこそ」


どきどきしている私の心臓とは、うらはらに口から出るのはなんとまぁ可愛くない言葉たち。
つい憎まれ口を叩いてしまうのは私の悪い癖。何か言われればムカつく返答しか出来ない私、本当に素直じゃない。
ふと耳から電車が通る音がした。なんだ。ブン太も外にいるんじゃん。私がどこにいるのか聞こうとしたら、それより先にブン太はとんでもない言葉を吐き出した。


「今 目の前に超可愛い子いるんだよな〜」
「･･･切っていい？」
「わー！ちょっと待てって！」


ありえない、こいつ。アホだ。果てしなくアホだ。今すぐぶん殴りたいんですけど。
まさかブン太のことを好いてやってる女の子に、そんなどうでもいい情報を教えてくるなんて。（向こうは気付いてないかもだけど！）明日会ったらどうしてやろうか。


「ナンパしようか迷ってんの」
「どっちでもいいし」
「何、今日冷たくない？」
「アンタがしょうもない電話かけてくるからでしょ」


あー、そっか。と、何とも間抜けた声が聞こえてきた。自覚あるんならやめてほしい。
っていうかナンパって何よ。本当こいつチャラチャラしてる。だから彼女できないんだ。ああ、ムカツク。
こんなことでいちいちかけてくんじゃないわよ。電話代の無駄だし。とかいいつつブン太からの電話はすごくすごく嬉しかったりする。とても屈辱。


「足ほっそ！」
「ふーん」
「髪すげー綺麗だし！」
「あっそ」
「･･･もっと他にねぇのかよ」
「なんて言ってほしいのよ」
「あ！なぁなぁ、声かける時はさ、なんて言ったらドキってする？」
「ちょっとそこのお嬢さん、僕とお茶でもしませんか？」
「うわ、うっぜ！お前それ絶対適当だろぃ」
「これで彼女もイチコロだよ」
「棒読みかよ。･･･あーあ、こっち向かねぇかなあ」
「ブン太なんて眼中ないよ、きっと」
「うっせぇ！･･･あー、やべ。どきどきする！」


話しかけもして無いくせに何どきどきしてんだか。馬っ鹿じゃないの。
っていうか私と電話してる意味ないと思うんだけど。すでに会話成り立ってないし。所詮ブン太の眼中には今、その足がほっそくて髪が綺麗でスタイルよくて胸がでかくてすっごい美人の女の子しか映ってないんだ。（･･･そこまでは言ってないと誰かツッコんでほしい）
ブン太が話しかけたらきっとその子もブン太に一目惚れするに違いない。捻くれてるけどルックスだけは良いし。
ブン太だって手が早いからもしかしてそのまま告白して上手くいって明日になったら自慢してくるかもしれない。もう、話しかけてくれないのかも。


「･･･」
「あ、止まった！よっしゃチャンス！」
「･･･」
「どーでもいいけどお前友達と遊べよ。一人とか孤独だな」
「･･･」
「おーい？聞いてんの？」


相変わらず耳に響く間抜けな声。
いつもはかっこいいはずだけど今、こいつほど憎たらしい奴はいない。私は大きく息を吸い込んでこれでもかってくらい大声で叫んでやった。鼓膜よ、破れてしまえ。


「アホブン太！！勝手にやってろ！！！」
「うわ！？ちょ、お前いきなり何すんだよ！鼓膜破れんだろぃ！」
「もう電話かけてこないでよ！喋りかけてこないでよ！」
「はあ！？」
「その女の子にもフラれちゃえ！！」

遠くの方から

「縁起悪いこと言うな！」

なんて声が聞こえたけどすぐさま電話を切った。馬鹿め、ブン太。
アンタなんてかっこよくもなんでもないんだから。･･･嘘だけど。
やるせない気持ちをどうにか抑えて携帯を荒々しく鞄に詰め込む。ブン太に話しかけないでって言ったことを今さら後悔した。馬鹿なことした、私。もう遅いけど。
明日からもうブン太とは喋れないんだと思うと目頭が熱くなってきた。ぐい、と腕で目を擦ってもまたじんわりと視界がぼやけてくる。
走り出してしまおうかと思った時、ふいに肩を叩かれた。

振り向けば見覚えのある、暑苦しいほどの赤。


「ちょっとそこのお嬢さん、僕とお茶でもしませんか？」

（20080703）（････････････嫌。）（うわ、まじでフラれたし）