Lovesickness






「おい、これやるぜ」
「・・・丸井が病気だ・・・」









「ジャッカル・・・!丸井が病気だけど・・・!!」
「バカ、お前!恥ずかしい事叫ぶんじゃねーよ!」


これはジャッカルに言うしかない!と走り出したわたしを、丸井は何故か追いかけてきた。
教室に辿り着いた途端、丸井に捕まってしまったけど、目的のジャッカルは面倒そうに廊下へと出てきてくれた。


「次はなんだよ・・・」
「大変!丸井が・・・わたしに飴玉をくれた!」
「・・・マジかよ!」


丸井が人に物をあげるなんて!しかも食べ物!ジャッカルと二人で珍しがったのが癪に障ったらしい。
丸井は苛立った様子でガムを膨らませてバチン!と割った。


「別に下心はないぜ」
「そうやって言うと余計怪しいぜよ」
「・・・仁王お前、いつからいたんだよ」


丸井が呆れたように振り返った視線の先に、仁王がいた。どうやら偶然通りかかったものらしい。
ジャッカルと一緒になって「病気じゃ」と騒ぎ立てる。ジャッカルは本気で心配しているというのに、仁王はといえば口元に笑みを浮かべている。


「ねぇ、熱あるんじゃない・・・?ちょっと・・・」


熱を測ろうとおでこに手を伸ばした途端、丸井は弾けたようにバッ!と距離をとった。顔が真っ赤だ。


「ど、どうしたの丸井!やっぱり熱があるんだ!」
「ないっての!お前ら、俺の事からかってんじゃねーよ!」
「からかってねえよ、お前の事を心配して!」


ジャッカルのフォローは見事にスルーされて、丸井はすごい勢いで走って行ってしまった。


「・・・仁王が騒ぎ立てるから」
「お前さんが急に触ろうとしよるから貞操の危機を感じたんじゃろ」
「し、失礼な!わたしは心配してっ、」
「アイツ、熱なんかなか。やらしいヤツじゃ」


仁王は楽しそうにニヤリと笑うと、尻尾のように結った髪の毛を揺らしてわたし達に背中を向けた。
ジャッカルを見上げると、わたしと同じように不思議そうな顔で仁王の背中を見ていた。


「どういう意味?」


背中に問いかけると、仁王はぴたりと止まった。振り返ってニヤリと笑う。


「恋の病じゃ」


えーえー・・・それってどういう意味・・・それって・・・。


「気にしすぎじゃろ、お前さん」
「・・・仁王、あれってどういう意味」
「貞操っちゅーんは、」
「そっちじゃなくて!その、病の方の・・・」
「お前さんの事好きなんじゃろ」


やっぱりそういう意味なの!でも言ってるのは仁王だ。信用ならない・・・。


「あの、それって・・・本当に・・・」
「今回ばかりは俺も本気ダニ。ええか?よう聞け。お前さんの事が・・・」


真剣に聞き入っていたところなのに、仁王の頭が引っ叩かれて会話が中断してしまった。
仁王が不満げに視線を上げるその先には、丸井がいた。気まずすぎる・・・!


「痛いじゃろ」
「なんでお前が言ってんだよっ!」
「今のうちにごめんなさいしときんしゃい。後が怖いぜよ」
「うるさいっての!さっさとあっち行け!」


あっち行け、って・・・仁王の席はここなのに。仁王は呆れたような顔で丸井を無視した。
丸井は物凄くイライラした表情でわたしと仁王の机を無理矢理引き離すと、その隙間に体をねじ込ませた。
そしてわたしの方に体を向けて、何故か次はポッキーを一袋も!差し出してきた。


「・・・丸井、やっぱり病気なんじゃ・・・」
「病気じゃねーって」
「しいて言うなら恋の病ナリ」
「仁王は黙ってろぃ!」


からかう事に飽きたらしい。仁王は「はいはい」と言ってそっぽを向いた。
それを見計らったかのように、丸井はわたしの手の中に無理にポッキーの袋を押し込んだ。


「今度のは下心あるからな!」
「・・・え?」
「ちゃんと、受け取れよな」


丸井はわたしの頭をくしゃっと撫でると、手と足を一緒に出しながら歩き、机にぶつかりながら自分の席へと戻って行った。
けど座席を間違えて女子に不思議な顔されてた。・・・どうしよう、これ。こんなのもらったら照れてしまう。


「満更でもなさそうじゃな」


反論できないわたしは熱い顔を隠すように俯いた。








(20110420)