「デブん太!」
「うるせー!おめーのがデブじゃねーかよっ!」


うわ、超喧嘩してる・・・。
丸井先輩と先輩が、ギリギリと睨み合ってる。
三強と呼ばれる三人がいない中だ。とばっちりを恐れて誰も止めようとしない。
ま、一応恋人同士だし、心配する事でもないとは思うけど。


「おーおー、痴話喧嘩かのう」
「雅治くんは黙ってて!」
「はいはい・・・」
「つーか、おめー、その雅治くんっていうのやめろよな!」
「何で?妬いてんの?ブン太くん」
「おめっ・・・マジ腹立つ!」


ついに取っ組み合いになっちまった。
真田副部長戻ってきたら怒るぞー、これ・・・。つーか何で喧嘩してんだろ。


「どうせ食い物辺りが原因じゃろ」
「奇遇ですね、私も同じ事を考えていました」
「おい、ブン太やめろよ。ケーキなら後で買ってやるから」


ジャッカル先輩が止めに入った途端、丸井先輩がささっとジャッカル先輩の前まで移動してきた。
そして何するかと思えば胸倉掴んだ。


「ジャッカル!何で俺だけに言うんだよっ、の方から突っかかってきたんだぜぃ!?」
「いや、それはよ、は女だし・・・」
「ブン太、脅すとか卑怯だよ!桑原くんはわたしの味方なんだもん、ねー」
「いや、その、」
「あっ、てめ、ジャッカル!今、胸見ただろ!見てんじゃねーよっ」
「見てねーよ!」
「いや、絶対ぇ見てた!」
「桑原くんはそんな事しません!」
「てっめ、何ジャッカルばっか庇ってんだよ!」


ぎゃあぎゃあうるさい・・・耳を塞いでいると、後ろから肩を突付かれた。
振り向いて・・・固まった。
うわー・・・丸井先輩も先輩もご愁傷様・・・。


「赤也、何の騒ぎかな?これは」
「ゆ、幸村ぶちょ、」


最悪だ!
幸村部長だけならまだしも、真田副部長も柳先輩も戻ってきちまった。
見るからに怒ってる・・・真田副部長なんかぷるぷる震えてるし。うわー。


「何をしている!」


よく通る声が響いた途端、部室はぴたりと静かになった。
丸井先輩も先輩も、血の気が引いていく。
ジャッカル先輩を掴んでいた手も緩んだから、その隙にジャッカル先輩は抜け出してた。


「ジャッカル!貴様もそこに直らんか!」


またとばっちり受けてる・・・マジ可哀想だよな、あの人・・・。
先輩は涙目で真田副部長の事見てたけど、「反抗的な目をするな」と軽く頭叩かれてた。
丸井先輩とジャッカル先輩は当然、マジ殴り。

あーあ、いったそー・・・。















「おめー、いい加減、手当てぐらいしろぃ。腐ってもマネージャーだろぃ?」
「桑原くん、痛くない?」
「ああ・・・俺はいいからよ、ブン太の方を、」


うわー、超雰囲気悪い・・・。
いつもの痴話喧嘩だと思ってたけど、事態はもっと深刻らしい。
丸井先輩と先輩の間に火花でも見えそうだった。
シカトし続ける先輩に、「おい!聞いてんのかよっ!」と声を荒げる丸井先輩。お決まりの挟まれたジャッカル先輩。


「仁王先輩、なんとかして下さいよ・・・超空気重いんスけど」
「嫌じゃ。ジャッカルにでも任せとけ」


任せられないから言ってんのに!


「おいって!俺にも、氷嚢!」
「自分で用意したらいいじゃない。っていうか女の子に貰ったアイスで冷やせば?」
「もう食っちまったっつーの!」


あー、やっぱり食べ物の事だ。
っていうか、丸井先輩がほいほい女の子にお菓子とかもらうのが原因?
もうお前だけだー、とか言って丸井先輩が謝れば解決するんじゃ。


「丸井先輩、謝った方がいいと思うっスよ」
「私もそう思います。貴方の態度が原因なのですから、謝りたまえ」
「正論じゃの」
「は!?ちょっと待てよ、何で俺が悪者みたいになってんだよ!」


部室の四方八方から非難の視線が丸井先輩に集まる。
先輩は満面の笑みで「謝ってよ」と言った。
ジャッカル先輩も、それで済むならと思ったのか何も言わずにいる。


「嫌だ!」
「いい加減にしたまえ!」


あ、柳生先輩が怒った・・・珍しい。“レディ”が絡むとこえーな。
丸井先輩は不機嫌なツラのまま、柳生先輩を見上げてた。


「いいですか、大体にして貴方が女性からお菓子等を貰わなければこんな事にはならないのですから、」
「それとこれとは全然関係ないだろぃ」
「あります!貴方だって、さんが別の男性からプレゼントを受け取ったら面白くないでしょう?」
「・・・は?そりゃ面白くねーけど、なんか勘違いしてねー?」
「ちょっと待ちんしゃい。おまんら、何で揉めとるんじゃ」


よくぞ聞いてくれたとばかりに、先輩が何故かジャッカル先輩の左腕を引っ張った。
そこにすかさず丸井先輩が寄って行って、空いた右腕を引っ張る。


「いででで!!!」
「ちょっとブン太!離してよ!わたしが先に掴んだんだから!」
「おめーが離せよ、ジャッカルは俺の!」
「わたしの!」
「離せっつーの!」


・・・まさか・・・喧嘩の原因って・・・いやいや、まさかね。
ふと周りを見渡すと、みんながみんな「まさか・・・」って顔してる。


「いでででで!」
「桑原くんだって、こーんな女王様みたいな男よりわたしの方がいいに決まってるよ!」
「うるせー!ジャッカルは貧乳には興味ねーんだよ!」
「ひ、人が気にしてる事を・・・!デブン太!」
「へっ、バーカ、もう言われ慣れててうんともすんとも思わねーよっ!」
「言われ慣れてる方が問題でしょ!」


・・・間違いねーな、これ。
ジャッカル先輩取り合って喧嘩してんだ。くだらねー!
多分、どっちにしてもパシリのように使われてんだろうけど。


「ジャッカル先輩かわいそー」


独り言のつもりで呟いたのに、いきなり丸井先輩の罵声がぴたりと止まった。
あり?


「・・・つーかさ、わかれよ・・・面白くねーだろぃ、普通」
「え、どうしたの、ブン太・・・」


急に様子が変わった事で怯んだのか、先輩が丸井先輩の顔を覗き込んだ。
途端、丸井先輩が顔を上げて、先輩の肩思いっきり掴んだ。


「普通!自分の彼女が他の男ばっかり構ってたら面白くねーだろぃっつってんだよ!」
「ぶ、ブン太・・・!」


え、何?この感動の仲直りみたいな雰囲気。
ジャッカル先輩、唖然。俺らも、唖然。二人の、世界。みたいな。


「他の男とベタベタしてんじゃねーよ」
「うん・・・ごめん」
「気にすんなよ。俺も、お前にやきもち妬かせようと思ってジャッカルとばっか一緒にいただけだからよ」
「はぁぁあっ!?」
「ブン太・・・!」
・・・!」


・・・なんつーか、ね。うん。
次々に散っていく先輩に倣って、俺もさっさとコートで誰か相手でも探そっと。
あのバカップルは放置で大丈夫だろ。
呆然と立ち尽くしたジャッカル先輩も放置でいいかなって思ったのに、幸村部長が「ジャッカル、どうしたんだい?ねえ、どうしたんだい?」とか言って嫌がらせしてた。


「・・・関係ないのに、どっと疲れたのう」
「私も、疲れました・・・」


俺も・・・三人分の溜息が、はぁ、とコートに細く響いた。








(20120420)Happy birthday!