「背筋伸ばしんしゃい」


後ろを振り向くと仁王とブン太がいた。背筋伸ばしんしゃいって・・・あんたに言われたくないな。
部活の朝練終わりだろうか?めちゃめちゃ寒いのにシャツ1枚だ。さむそ・・・!


「寒いと丸まっちゃうの。朝練?」
「おう。お前も運動したら?」
「絶対嫌。」
「寒うなってきたの・・・、そのカーディガン寄こしんしゃい」
「私だって寒いもん、嫌じゃ」


とは言ったものの・・・シャツ1枚の仁王はクシャミ連発。
汗ちゃんと拭かなかったのかな。鼻が真っ赤になって震えてるし・・・。


「・・・もう。ブレザーどうしたの?」
「ラケットと一緒に入っちょる。出すの面倒じゃ。おー・・・ぬくいのう」
「え、何?お前何枚カーディガン着てんだよ!太ったのかと思ったらカーディガンかよ!」
「失礼な!」


ブン太と言い争ってるうちに教室に着いた。
3人とも席が近いからブン太との言い争いはまだまだ終わらない。
仁王は止めることもなく、自分の席に着いたと同時に寝た。


「おい、仁王!寝てんじゃねーよ!!」
「ちょっと仁王!私のカーディガン我が物顔で使わないでよ!!」


ちゃっかり私のカーディガンの上からもう既にブレザーを着ていた。
・・・にしても、ピンク色のカーディガンをここまでナチュラルに着こなす仁王が凄い。


「お前さんまだあと5枚くらいカーディガン着とるじゃろ」
「ちょっとそれどういう意味!?」
「太って見えるんだろぃ?俺もそう思ってた。」
「ブン太ーーーーー!!!!!!」


ブン太と2ラウンド目突入。しかもカーディガンは2枚しか重ね着してない。
仁王に1枚貸したから今は1枚しか着てないのに!!確かに最近ちょっと太ったけど!


「あーあ・・・運動しようかな」
「お前に無理だろ!」
「黙って。」
「ダイエットか?さっきのは冗談ぜよ」
「今更遅いよ仁王。どうせ私のことデブだと思ってるんでしょ!」
「あーあ。泣いちゃった!仁王責任取れって!!」
「・・・嘘泣きにしか見えん」
「放課後グラウンド集合!逃げないでよ仁王!!」
「せっかく放課後部活オフなんじゃが・・・」


こうして私のためによる私のダイエットが始まった。コーチは仁王。
グラウンド3周くらい走ったら3キロぐらい痩せないかな。


「お前さんアホか」
「え!?こ・・・こここ心読んだ!!?」
「読むまでもない。まぁ、面白そうじゃ。ちょいと付き合ってやるぜよ」
「私が言うのもなんだけど、5分くらいで終わると思うよ。」
「・・・根性見せんしゃい」


教室は暖房が付けられて丁度心地よい温度。眠くなってきたなぁ。
カーディガンを脱いでひざ掛けにする。明日はひざ掛け持ってこよーっと。

後ろの席の仁王は冬眠の如く全授業上手いこと先生に見つからないように寝ていた。


「仁王って世渡り上手だよね」
「褒め言葉か?」
「私が寝たらすぐに先生に見つかっちゃうもん」
「あぁ。あんだけ堂々と寝たら誰だって分かるじゃろ」
「うわっ・・・寒。」


玄関を出た瞬間私のやる気を根こそぎ持っていかれた。
もう心折れそう。チラッと仁王を見たら私のことをじーっと睨んでいた。


「や、やるよ・・・。うん、やるってば・・・責めた目で見ないで」
「お前さんが俺のこと誘ったんじゃからな」
「わ、分かってるってば・・・」


まぁ、きっと走ったら暖かくなるよね。
とりあえずグラウンドまで行くと閑散としていた。全部の部活オフだもんなぁ。


「俺そこにおるわ」
「じゃあ、ちょっくら走ってくるね」
「頑張りんしゃい」


一周走り終わった頃には体が暖まってきた。これ二周目もいけるかも!
・・・と思った。普通に無理だった。わたし、帰宅部なの忘れてました。


「つ・・・疲れた!!!喉乾いた!暑い!!」
「一周半しか走っとらんじゃろ、お前さん」
「もー駄目ー・・・あー疲れたー・・・」
「喉乾いたんなら喫茶店でも行くか」
「うん、どっか座りたい。」
「それにしても体力なさすぎるんじゃなか?」
「わたし帰宅部だよ?」


駅の方まで歩く。・・・段々寒くなってきた。


「はっくしゅん!」
「これで汗拭きんしゃい。使ったやつやけど拭かないよりマシじゃろ」
「ありがとう。別に気にしないよ」


あ、仁王の匂いだ。
この匂いすごく落ち着くなぁ。


「あれ?教室にカーディガン忘れてきた!どうりで寒いわけ!!」
「あ。にカーディガン返すの忘れとった」
「そうだ!早く脱いでよ仁王!寒いんだけど!!」
「しょうがないのう・・・」


カーディガンを着るとちょっとブカブカになっていた。
また、ふと香ったこの匂い。香水が嫌いな私だけど、この匂いだけは好き。









「さて何頼もうかの」
「このパンケーキ美味しそう!確かブン太が美味しいって言ってたやつ・・・」
「決めたか?」
「あーいや、うん。・・・・・・カフェオレにするっ・・・」

「・・・すみませーん」
「はい、ご注文をどうぞ」
「ブレンドコーヒーと、カフェオレとこの、パンケーキ一つ」
「かしこまりました」

「え?」

「俺が食べるんじゃ。お前さんにやらんぜよ」
「い、いらないもん!」


仁王は意地悪だ。とことん捻じまがってる。
わたしに見せびらかしながら食べる気だな、きっと。


「おまたせしました。ブレンドコーヒーとカフェオレ、パンケーキになります」


店員さんはパンケーキを私のところへ置いた。
お、美味しそう・・・!!仁王を見るとニヤニヤしていた。


「一口だけちょうだい・・・」
「嫌じゃ。」
「仁王のいじわるー・・・!」
「可愛い言い方しなさんな。ほら、全部食べんしゃい」
「え?いいの!?」


仁王はツボに入ったのか笑いっぱなしだ。一体何が面白いのかさっぱり分かんない。


「あ〜!美味しい・・・!」
「どれ、一口」
「あ、待って。今フォーク貰うから・・・」
「いらん」


あ、と思った時にはもう私の使ったフォークで食べていた。


「おぉ。甘い、うまいな」
「え・・・あ、うん。でしょ!?」


ブン太の話とか、クラスメートの話をしているといつの間にか外は暗くなっていた。
喫茶店を出ると寒くて体が縮こまる。夜は更に冷えるなぁ・・・!


「おーい!仁王とだろ!!」


振り返ると自転車に乗ったブン太がいた。
コンビニ帰りだろうか、カゴにはお菓子がたくさん入った袋がある。


「お前ら姿勢悪すぎてウケる。爺さんと婆さんみたいだったぜ」
「うるさいなぁ!寒いの!!」
「じゃーな!仁王、ちゃんと送ってやれよー!」
「おー。」


さくっとブン太は帰っていった。


「じゃあ、私こっちだから」
「送ってっちゃる。ブン太にも言われとるし」
「寒いしいいよ、それに奢ってもらっちゃったし」
「ええから、黙っていうこと聞きんしゃい」


こうやって時々優しい顔をする。
素直じゃない仁王、優しい仁王、意地悪な仁王、どれが本当の仁王なんだろう。


「あー・・・寒い。」
「カーディガンも着てるしマフラーもしとるじゃろ。俺の方が寒い」

「あはは。背筋伸ばしんしゃい」

「朝の仕返しか?マフラー寄こしんしゃい」
「もう少しで家だし、良いよ。明日ちゃんと持ってきてね」
「おぉ。やっぱりしてるのとしてないんじゃ全然違うのう・・・」


もう家の目の前に着いちゃった。
なんだか名残惜しいけど、今日はずっと仁王といて楽しかった。


「じゃあ・・・・・・ね!!?」


仁王の顔が急に近づいた。
私の頬っぺたと仁王の頬っぺたがくっついてる。キ・・・キスされるのかと思った・・・!!


「マフラーに顔うずめてただけあって暖かいのう。」
「に、仁王!?」


仁王は手をヒラヒラさせて帰って行く。
背筋は丸まっていて、まるで朝の私みたい。

見えなくなるまで見送ると、私の頬はいつの間にか冷たくなっていた。








(20131204)