taste sweet




「仁王くん、仁王くん!」
「おー、か」


頭を撫でてやると、は嬉しそうにニンマリと笑いよる。まるで犬みたいじゃ。俺によう懐いとる。俺も、の事をペットのように可愛がっとった。にも恐らく他意はないと思う。仁王くん仁王くん!と走り寄ってきては、俺が名前を呼ぶ度に嬉しそうに笑うだけじゃ。


「どうした?」
「課題を回収に来たよ!」
「ああ。・・・忘れとった」


どうやら今日はが日直で、課題を回収してまわっとるようじゃ。
周りを見渡せば、課題をやり忘れたらしいヤツらが必死で一枚のプリントに群がっとる。・・・丸井もおるようじゃが、見なかった事にしてやる。俺は鞄の中に突っ込んであるプリントを取る為に、自分の席へと歩いていく。は俺の二歩くらい後ろを跳ねるような足取りで付いてきた。


「これか?違うな」
「うん、違うみたい」
「どこ行ったかのう・・・探すの面倒じゃ。出さんでも良かろ」
「えー!ダメ!」


は頬を膨らませて、俺をじぃっと見とる。
・・・不満を訴えたいんじゃな。仕方なく、また鞄の中をガサガサと漁る俺を、物珍しそうに眺める。目がクリクリと動いて面白い。


「えーっと・・・これじゃったか」
「あれ?仁王くん、これ前回のだよ!」
「そうか。じゃあー」
「待って待って!これ全部やってあるのに、どうして提出しなかったの!」


一度に渡した前回のプリントを返してもらおうとしたが、は必死でそれを自分の手の中に収めとる。は焦ったような表情で、俺に詰め寄る。あまりに距離が近いもんじゃから、俺は思わず手を伸ばしそうになるが、はどうやら怒っとるみたいじゃし、我慢する事にした。


「なくしたと思ったんじゃ」
「じゃあ、先生に新しくプリントもらって、提出したって事?」
「いや、提出しとらんよ」
「ダメだよ・・・!これ、提出しておく!」


今更出してどうなるっちゅーんじゃ。と、思っとったが、曰く提出期限が遅れても一応程度の点数は付くらしい。しかし、今頃提出したとなると、担任辺りがグチグチと文句を言ってくるに違いない。・・・面倒じゃ。


「返しんしゃい。他の事で挽回するから良か。テニスとか、な?」
「確かに、仁王くんテニスしてる時すっごく格好良いけど・・・と、そういう事じゃなくて!」
に格好良いなんて言ってもらえて、俺は幸せじゃのう」
「えー・・・って、そうじゃなくて!」


頭を撫でてやると、は気持ち良さそうに目を閉じた。しかし、すぐに正気に戻ったようじゃ。チッ・・・。は俺に流されそうになりながらも、必死で俺を説得しとった。


「だって、勿体ないよ・・・折角やったのに」


しゅんとするの姿が、叱られた犬みたいで、俺は少し笑ってしまった。
は、どうして笑われたのかがわからんらしい。度合いを増して落ち込んでいく。


「仕方ないのう・・・。じゃあ、出しといて」


そう言ってやると、の顔がパァッと明るくなった。「うんっ!」と大きく頷くと、すぐにパタパタ走ってどこかへ行ってしまう。


「待ちんしゃ、い・・・」


言うてみても、はもういなかった。が乱暴に閉めていったドアが反動で小さく動いとる。
おいおい。今回の課題、回収するの忘れとるじゃろ・・・。鞄の中におもむろに手を突っ込むと、ガサッと音がした。
引き上げてみれば今回の課題。今頃見つかっても遅いぜよ・・・。プリントを手にしたまま、俺は立ち止まって考える。
課題は全部回収した後、数学の時間に教師に渡す手筈になっとるはず。という事は、職員室に行ったわけではなさそうじゃ。だとしたら一体どこに・・・
・・・まったく、俺もヤキがまわったか。
次の授業で会った時に渡せば良いものを。俺は、そんなおっちょこちょいながすごく可愛く思えて、今すぐ抱きしめたくなったんじゃ。プリント片手に、俺は廊下を走った。

真田の「廊下を走るなど、たるんどる!」という怒号が聞こえたが、聞こえないふりをしとこうかの。





(20091205)