よくわからない人と付き合う事になった。


「仁王、」
「何じゃ。俺はもう帰るんじゃ」


わたしだって帰るんじゃい、と言い返したくなった。
仁王の方から付き合えと言ってきたくせに、仁王はわたしに特別冷たい。
上の方から見下ろして、今日はおまけに鼻で笑ってもくれた。


「じゃあ、いいや。ばいばい」
「待て待て」


慌てるでもなく、わたしの腕を引っ張った仁王は今度は不機嫌そうな顔をした。
睨みつけると、不貞腐れたような顔に変わる。


「なに、仁王。わたしも帰るの」
「お前さん、可愛くないのう・・・」
「じゃあ無理して付き合わなくてもいいよ」
「そういうところが可愛くなか」


仁王は明らかに不満そうな表情をしてから、わたしの腕をわざと痛くなるように引っ張った。
今まで無表情な人だなと思っていたけど、たまにころころと表情を変えてくれて、そういう時は見ていて楽しい。
思わず笑うと、仁王もちょっと笑う。


「こっちに来んしゃい」
「いたた」
「帰るんじゃ」
「一緒に帰ってください、は?」
「・・・帰る」
「・・・仁王もかわいくない」


捕まった万引き犯になったような気分で、わたしは仁王にぐいぐいと腕を引っ張られるままに帰路につく。
わたしも何歩か前を歩く仁王の表情は、よくわからない。


「仁王、腕が痛いよ」
「離してほしいんか」
「うーん・・・」
「何を悩む事がある?」


きょとんとした顔で、仁王はようやく振り向いてくれた。
だけど、痛いは痛いけど、仁王と離れるのはちょっと嫌だな、とかは言えない、言いたくなかった。
わたしが黙ったままでいると、仁王は少し屈んでわたしの顔を除きこんだ。
少し大きく見開かれた瞳が、不思議そうにわたしを見ていた。


「何じゃ。俺と帰るんが、そんなに嫌なんか」


そう言った仁王は、少し寂しそうに見えた。
ちょうど手の届く位置に仁王の頭があったから、撫でてみると、思ったよりふわふわとしていた。
仁王はちょっと驚いたような顔をする。


「ううん、嬉しいよ。でも腕は痛いし、どうしようかなと思っただけ」


どういう意味かよくわからない言葉だと思ったけれど、仁王は本当に勘が鋭い。
わたしの手を即座に取って、ニッと笑った。


「これは?」
「うん。・・・仁王、勘すごいね」
「なん、それ。俺がしたかったからしただけじゃ」


またまた。口がうまい。
そう思って顔を見ると、思いのほか真っ赤になった仁王がいた。
今までびくともしなかった引出しが、少しだけ開いた瞬間だった。





(20111204)