朝、教室までの道をいつものように歩く。
今日はちょっといつもと違った。なにこのラーメン店みたいな行列は。


「ねぇ、教室に入れないの?」


前に並んでいたブン太に聞いてみる。
ちょっと想像できるけど(ていうか薄々勘付いてるけど)一応。一応聞いてみる。


「おー!じゃん。またいつものやつだろぃ。今日は腕相撲らしいぜ」
「はぁー・・・」


そう、うちのクラス3-Bはちょっと変わってる。ていうかお祭り好きが集まってる。
一ヶ月に一回忘れた頃にこうやって小さなイベントを開催する。

前回はじゃんけん大会をしたっけ。


「勝った奴がずっとあそこの机でやってるみたいだぜぃ。俺ガチでやろっかな!」
「パワーリストは外してあげなよ。それ重いから」
「俺が勝ったら、次はと勝負か。おっ!その後ろは増田かぁ〜。」
「増田くんバスケ部だから、ブン太負けるかもね」
「はぁ!?テニス部のがつえーだろぃ!」


さっさと負けて自分の席に座ろうっと。
そう考えていた矢先にブン太の一言でわたしの闘志に火がついた。


「賭けようぜ、賭け!」
「え?」

「5人抜きしたら学食奢り!プラス、コンビニでお菓子買い放題!」

「まじで!?」
「おー!まじまじ。っま、俺に勝てるわけねーじゃんお前」
「あんた何でわたしと真っ向勝負しようとしてんのよ。ハンデないとおかしいでしょうが」
「あぁ、お前女だったっけ。」


ブン太に無言で回し蹴りする。こいつの言動ほんとムカツク。

とりあえず、私がブン太に勝ったとして一人目・・・二人目はバスケ部の増田くんか・・・。
三人、四人目は女子だから勝つとしてー・・・五人目は・・・・・・・・・


「仁王!!?」
「・・・ん?呼んだか」


わたしはとりあえず後ろにいる増田くんに、こそっと交渉してみることにした。
するとどうだ、増田くんは超絶優しい。快く八百長試合を引き受けてくれた。
(どっかのお菓子ばっかり食べてるデブとは違うんだ)(デブじゃねぇよ!筋肉だろぃ!)


「問題は仁王かぁ・・・」
「あ?なんか言ったか?」
「ちょっとトイレ行ってくる。順番まだまだみたいだし」
「おう」


ブン太は携帯をイジり始めた。・・・よし、こっち見てないな。今がチャンス!!
増田くんと同様に仁王にこそっと交渉してみる。


「ねぇ、仁王」
「なんじゃ、お前さんさっきから」
「お願い!この腕相撲負けてほしいの・・・!!」
「・・・なんでじゃ?」

「ブン太と賭けててね・・・負けたら学食とコンビニのお菓子奢らなきゃいけなくなるの」

「へぇ。面白そうじゃのう」
「仁王って勝ち負けそんなに拘らないでしょう?ね?負けてくれる?てか何で仁王が並んでんの?」
「しかしな・・・立海テニス部の掟に負けたら真田のビンタが・・・


「それはテニスの試合だけでしょう!?」


おっと・・・思わず声が大きくなってしまった。
ブン太がきょろきょろとしているから仁王の背中に隠れた。・・・よし、また携帯見出したな。


「お願い、仁王何でもするから!ブン太に一緒に学食奢ってもらおーよ!ね?」
「何でもするって言ったな?お前さん」
「うん!わたしからブン太に頼むから!!お願いっ」

「クックック。そろそろお前さんらの番じゃろ。早く戻りんしゃい」

「っわ!じゃあよろしくね仁王!!」


列は結構進んで、ついにブン太の番がきた。


「よっしゃー!5人抜きするぜー!!」
「ブン太負けろ!頑張って、津田くん!!」


津田くんとは、今のところ腕相撲連勝中のサッカー部のエースだ。
しかし10人くらいと連続でやればさすがに力が尽きてくる。津田くんはブン太に負けてしまった。


「よしっ!次も勝つぜー!楽勝楽勝!!」
「じゃあ、パワーリストは付けたままでもいいけど左手で勝負ね。私は両手でやるから!」
「おいおい!ハンデ強すぎだろぃ!!」
「はい、さっさと手出して!」


ブン太の文句は完全無視で試合結果はもちろん・・・両手でやったら勝ちますよね。
ええ、わたしの圧勝でした。増田くんにも事前に八百長試合を頼んだのでこちらも勝ちました。

地味に増田くんが演技入れてくれたことで、「怪力すぎねぇ・・・?」と周りがボソボソ言ってました。

女子2人には五分の一も力出してないのにあっさり勝ってしまいました。
うん、絶対今日からあだ名が『カイリキー』になりそう。


「仁王!まじでこいつに勝てよ!!俺奢るのぜってーヤダし!」
「約束は絶対に守ってよ!ブン太!」


「仁王も!」と口パクをする。仁王はニヤッと笑って手を出す。
ブン太の「レディー・・・ゴー!」の声と共に勝負開始!秒で私の圧勝!と・・・なる予定だった。


「に・・・お・・・・・・うっ!!」
「はよう倒しんしゃい」


さっきから全力で力出してるけど仁王の腕が全然動かない・・・!


「んん・・・っ!!っっはぁ・・・・・・ッ!」
「クックック」
「ばか・・・っ!遊んで・・・ないっ・・・で・・・・・・!!」


いたずらっ子みたいに笑った後、いつものニヒルな顔して私の口元を手で押さえる。
私の耳元でささやく。


「んっ・・・!?」

「そういう声は俺と2人きりのときにだしんしゃい」

「 !? 」


肩に入れてた力が一気に抜けて右手の甲がコツンと机についた。
「おっと、しまった。」と仁王が言うけど、もう遅い。この勝負は仁王の勝ち。

手は繋がったまま、仁王は急に立ち上がりスタスタ歩き始めるから引っ張られる形でついて行く。
後ろにいるブン太が「ひゅーひゅー!」とうるさい。


「ど、どこ行くの仁王!?」
「2人きりになれるところに決まっとるじゃろ」
「はぁ!?ちょっと!ていうか授業あるし、」
「少し黙りんしゃい」


HRが始まる直前、廊下のど真ん中でキス。
あちこちでかなり目撃されていて、ちょっと有名になったのは言うまでも無い。










(20131204)