make an effort
「いやぁぁああああ!!!」
「どうしたというのだ!」
そのでかい図体に飛びつくと、真田はおろおろと辺りを見回した。
そこにはパニックに陥るわたしと、泣きそうになってる赤也と、気まずそうな顔をしているジャッカル以外は何もいないよ!
「さ、真田ー!赤也がっ・・・赤也がロッカーでカブトムシ飼ってたー!」
「真田副部長ー!俺のカブトムシ、ジャッカル先輩がゴキブリと間違って逃がしたー!」
「す、すまねえ・・・赤也!真田も!」
「おい、弦一郎はお前らの父親じゃないんだぞ」
柳の言葉も無視し、ぎゃあぎゃあと騒ぐ中。仁王がぴくりと動いた。
これから何が始まるのかを察したらしい。ロッカーに駆け寄るのが見えた。わたしは素早く真田から離れて、仁王の腕を掴んだ。
「動かないで!」
「チッ・・・バレたか」
「お前ら、何をしているのだ」
真田は気付いていないらしく、のほほんと着替えを続行している。まぁ、真田は心配ないと思うけど・・・。
「ロッカー掃除を兼ねて、ロッカー検査するよ!」
勝手な事するな!と怒るのは、やっぱり素行の悪い一行で。わたしは聞こえないふりをした。
「はい、まず仁王から開けて」
「嫌じゃ。先に丸井にしんしゃい」
「ダメ!仁王なら、他を見てる間にロッカーどうにかしちゃうでしょ!」
再度舌打ちをして、仁王は素直にロッカーの前から退いた。ロッカーを開けた途端、仁王が「あ」と声を上げる。
「そういや、開ける時、気を付けた方がいいぜよ」
「うわぁぁぁああー!」
「遅かったか」
ロッカーを開けると大量のスーパーボールが転がり落ちてきて、わたしはすごく驚いた。
何でこんなに・・・?ていうか何故スーパーボール・・・?一つ拾って呆然としているところに、仁王の嫌味な笑いが響く。
「先に言ってよ!」
「開け方にコツがいるんじゃ」
「というか、どうしてスーパーボール・・・?」
「知られたら終わりぜよ・・・プリッ」
それで何でもごまかそうとしてない・・・?的屋でもやってるんじゃ・・・と考えて仁王を見つめるも、仁王は笑うだけだ。
「さ、もう良かろ?」
「まだスーパーボールしか見てないよ」
「他には何もなか」
「あっ、何コレ・・・」
「あ、コラ」
ロッカーの中から引っ張り出した物を見て、わたしは先行きが不安になった。
裸の女の人がパッケージのDVD・・・明らかにアダルトビデオだ・・・!
「こんなのっ・・・学校持ってきちゃダメだよ・・・!」
「顔真っ赤じゃ。可愛か」
「かっ、からかわないで!」
仁王め・・・ただのAVなら、わたしだって笑いながら没収とか言いつつ真田のロッカー入れてからかうくらい出来るよ。
でも、このAV女優・・・自分で言うのもなんだけどわたしに顔が似すぎ!絶対わざと!
他の連中が見たら絶対何か言い出すと思って、大人しく仁王のロッカーに戻そうとした途端、後ろから丸井にひょいと取り上げられてしまった。
「あ。これにそっくりじゃん」
「えー!見せてください!」
「確かに似ているな」
「瓜二つですね」
「や、やめろよお前ら・・・」
「仁王、次俺に貸してよ」
「ダメー!没収!没収!たるんでる!ね、真田!」
「う、うむ・・・」
真田・・・頷きながらもチラチラとパッケージに目を取られている!
「何見てんの・・・!」
「別に見とらんわ!た、たわけが!」
それにしても、このDVDどうしよう・・・。なんだか一気に疲れてしまって、わたしはDVDを握り締めたまま項垂れた。
真田が近寄ってきて、頭の上にどす、と大きな手の平を置く。
「どうしたのだ」
「・・・なんか疲れた・・・もういい・・・各自でやって」
「俺だけ損してなか?」
「仁王先輩より俺っスよ!俺のカブ太郎返して下さい!」
なんてセンスの悪い名前だ、と思いつつわたしは部室を後にした。
あとは幸村か柳、真田辺りがどうにかしてくれるだろう・・・。肌寒いけど、コートにあるベンチに座り込んだ。ふぅ、とため息をついた途端、肩にふわりと暖かい感触が広がる。
真上を見ると、そこには真田がいた。肩にかかったレギュラージャージ。あ、優しいんだ。
「真田、風邪引くよ」
「そんな柔な体しとらん」
「そうだよね、真田だもん」
真田は嫌味と取らなかったらしい。わたしの隣に座って、真っ直ぐ前を見据えていた。
「みんな、ちゃんと掃除してくれてるかなぁ」
「今、幸村と柳生がうるさく言っているところだ」
「じゃあ大丈夫だ」
わたしが笑みを浮かべると、真田は安心したように笑い返してくれた。
その笑みにこっちまで安心してしまって、わたしは真田の肩に頭を預けた。
「・・・?」
「なんか疲れた。休憩」
「うむ・・・」
真田は微動だにせずにそこに座っていた。寒くて、わたしは少し体を横にずらして真田の体と密着するように座った。
少しの間、真田は息を止めて動かないでいたけれど、やがてぎこちなくわたしの頭を撫でた。
「どうしたのだ」
「・・・なんでもない」
「なんでもない事はないだろう」
真田はジャージごとわたしの肩を抱き寄せた。視線は前のまま。
それに甘えて、涙が出そうになった顔を俯いて隠した。
「あまり無理をするな」
「え?」
折角人が顔を伏せているというのに。真田は突然わたしの顔を覗き込んで、顎を掬い上げた。
そのまま真っ直ぐ、射抜くようにわたしを見つめる真田。
「最近疲れているように見えるぞ。お前は頑張りすぎるのがいかん」
「・・・でも、みんなの為に・・・」
「泣くな」
思わず涙がこぼれた。情けない・・・わたしはみんなと一緒にいたいから、頑張ってきたのに。
みんなの重荷にならないように辛くても我慢してきたのに。近頃の寒さと忙しさくらいで参るなんて、わたしはどうかしてる。この大事な場所を失ってもいいの?
「・・・いや」
真田は突然わたしの体を抱き締めた。不器用な動作のせいで、真田の硬い胸に鼻をぶつけた。
真田は息苦しくなるほど、わたしを強く抱き締めた。
「今は、思う存分泣け」
「・・・う・・・」
真田のバカ・・・そんなに優しくするからだ。別に辛くて泣いてるわけじゃないんだから。
わたしは真田に縋りついて思い切り泣いた。疲れていた。でもみんなの方がもっと頑張って疲れてる。
わたしだけ弱音を吐いちゃいけない。そう思ったのに、真田は背中をぽんぽんと叩いて更にわたしを泣かせてくる。
「お前も俺達と一緒に頑張っているのだ。どうして隠すのだ」
「・・・だって、だってっ・・・」
「俺はお前を重荷だと思った事はない。最近、無理をしているのではないかと心配だった」
「真田ぁ・・・」
恥を承知で涙でぐちゃぐちゃの顔を上げると、真田は至極優しい顔をしていた。
でも眉を下げて、申し訳なさそうな真田。そんな顔しないで。
「泣かせてすまない・・・気遣ってやれなかった・・・」
「真田のせいじゃ、ないのに・・・」
いや、真田のせいだ。真田がこんなに優しくするからいけないんだ。だから、もうちょっと責任を取ってもらおう。
わたしは真田の背中をぎゅうっと握って、胸元に頬を寄せ思いっきり甘えた。
「・・・おい、あまりくっつくな」
「もうちょっとだけ・・・」
「こっちはそういうわけにもいかんのだ」
真田が何か言ったけど、わたしには聞こえなかった。突然「すまん」という台詞と共に唇を奪われて涙が止まるのは、あと5秒後の話。
(20101124)