Do you like it?





「たるんどる!」


部室の扉を開けた途端、真田の怒号が響いてわたしは本当に驚いた。
ふと見れば、怒られているのはクッキーを頬張っている丸井で、やっぱり反省なんてしていない。


「別にいいだろぃ。なんで貰っちゃいけねーんだよ」
「女子から物を貰ってニタニタ笑うとは、たるんどると言っているのだ!」
「ニタニタなんてしてねーよ」


また始まった・・・仲が悪いわけではないけれど、丸井はどうしてこうも真田を怒らせるのが上手いんだろう。
丸井の言葉に真田は腹が立ったらしい。額に青筋を浮かべながら立ち尽くしている。わたしはこっそりと真田の後ろを通り抜け、柳生の肩を突付いた。


「おや。タイミングの悪いところに・・・」
「ねぇ、丸井何したの?」
「今日私達のクラスで女子の調理実習があったでしょう?」
「うん。みんな丸井にあげるって言ってた」
「それを受け取ったのがまずかったようですね」


そんなのいつもの事なのに。バレンタインとか見てみろと言いたい。
丸井は一年の時も、二年の時も、数え切れない量の大きな紙袋をジャッカルと二人で持っていた。真田は何が気に食わないのやら。
不思議に思って真田と丸井を見つめていると、横にいた幸村がフフッと笑った。


「どうやらアイツ、同じクラスに好きな子がいるみたいだね」
「え・・・?丸井が?」
「いいや。弦一郎が」
「・・・えぇぇぇえええ!!!!」


大声を上げた途端、真田が驚いた表情で振り返った。でもすぐに機嫌の悪い顔になってしまい、「いつからいたのだ」と呟いて自分のロッカーの前へと行ってしまった。


「ね、ねぇ・・・幸村、それ本当に?」
「私も初耳ですが・・・」
「アイツ、自分が貰えなかったから僻んでるんだよ。うけるー。」
「そ、そうだったの・・・」


ふと真田の表情を見ると、どこか寂しそうな顔をしている。
やっぱりそうなんだろうか・・・それにしても、一体誰の事が好きなんだろう。真田、仲良い女の子なんていたかな?考え込んでいると、柳生がわたしの肩を叩いた。


さん。貴方のでもいいですから、クッキーを差し上げなさい」
「え、でもあれはわたしが食べようと・・・」
「やれよ」
「・・・うん」


幸村に逆らえないわたしは、しぶしぶ頷いた。
みんなの前で渡すと絶対断られると思ったから、みんながいなくなるのを見計らって声を掛ける事にした。
丸井は最後まで真田に見せびらかすようにクッキーを食べていたけれど、幸村が耳元で何かを言った途端、一目散に逃げて行った。
ありがとう幸村・・・!幸村は、わたしにニッコリと笑いかけてから出て行った。


「真田」
「どうした。お前も早くコートに出んか」
「すぐ済むから。これ、もらってくれないかな?」


クッキーを渡した途端、真田の表情が凍った。
もしかして地雷踏んだ・・・?真田は貰うかどうかを考えていたのかもしれない。何故かわたしも、貰ってもらえなかったらどうしよう・・・と、すごく不安になっていた。
なんだかわからないけど、真田に貰ってほしい。暫く沈黙が続いて、真田の手が伸びた。


「・・・もらってやろう」
「わぁ・・・!よかった!」
「ありがとう」


受け取った真田は、すっごく嬉しそうな顔をしていて、わたしはすごくすごく嬉しかった!
でも微笑み返した途端、部室の扉が開いて何故かさっき出て行ったはずの幸村が満面の笑みを浮かべて立っていた。え。何してるの・・・?


「やっぱり弦一郎はの事が好きなんだね」
「・・・は?」
「だって女の子が何人かクッキー渡しに来たけど、断ってたじゃないか」
「幸村!」


横にいる真田が大声を出すものだから、驚いて視線を上げて、わたしは更に驚いた。真田の顔が、赤い!


「え!真田・・・!?」
「何だ!」


いや、別に返事をしてほしくて名前を呼んだわけじゃないんだけど!
幸村はずかずかと近付いて来て、真田の両肩をがっしりと掴んだ。指が食い込んでいるのが、傍目で見てわかります・・・。


「どうして他の子は断って、のは貰うんだい?」
「・・・別に俺が誰から貰おうが、構わんだろう」
「知りたいな。どうして?」
「腹が減っていたのだ!」
「本当に?じゃあ俺がもらったのいっぱいやるから、交換しようよ」


幸村はそう言うとロッカーの中から紙袋を一つ取り出して真田の胸に突きつけた。
さぁ、どうするの真田・・・わたしは多分、交換するだろうなって思っていた。それなのに真田は、渋い顔をした後、それを突っ返した。


「あれ?腹が減ったんだろ?こっちの方が量が多いのに、どうして?」
「・・・別に良かろう」
「良くないよ。俺は理由を知りたいんだ」


幸村は相変わらずどんな場でも暴君だと思う!でも真田は怯んだ様子もなく、拳をぎゅっと握ると、カッと目を開いた。


「コイツの作った物が美味そうに見えるのだ!悪いか!」
「えー、色形は一緒だけどなー。どうしてだろうね、弦一郎」
「知らん」
が好きだからなんじゃないの?ねぇ」
「知らん」


幸村はフフッと笑って振り返ると、わたしに向かって「素直じゃないね」と言って笑顔を浮かべた。
若干わざとらしく「さ、部活部活」と呟いて幸村は出て行ったけど、真田はぴくりとも動かない。


「真田・・・?」


声を掛けると、真田の肩がぴくりと揺れた。若干ぎこちなく振り返った真田の顔はやっぱりまだ赤くて。


「・・・気にせんでいい」
「えー気にしたいな。真田、わたしの事好きなの?」
「なっ・・・!」


真田はろくな返事もせずに地面に足を擦り付けるような、変な歩き方で出て行ってしまった。
部室の扉がバタンと閉まった途端に外からドンガラガッシャーン!とかすごい音がして、真田の「うおー!」って声が響いたりして。動揺して可愛いやつめ。
次はどうやってからかってやろうか。わたしは顔がニヤつくのを止められなかった。




(20110531)