「疲れてんなぁ!柳生!」
「・・・仁王くんが来ません・・・」
柳生はすっかり疲れていた。でも女子の前では疲れたそぶりは見せねー。さすがジェントルマン!
でも俺の前では思いっきり疲れてるの丸出し。
まぁ、朝からプレゼント攻撃に遭いっぱなしだし、しょうがねーよな。
誕生日ってのは大変だよな。
俺?俺だって大変だっつーの!なんせ天才だからな!
でも天才的妙技で何のその!
あ、ところで何で柳生が仁王を待ってるのかだけど。
毎年仁王と時間ごとに入れ替わって疲れを二分にしているらしい。
仁王の誕生日も然り。
いいな。俺もやりてーけど、相手がジャッカルじゃぁなぁ・・・バレバレだっつーの!
「遅いです・・・いつもに増して」
「得意の嫌がらせじゃねーの」
言った瞬間、頭にニブい痛みと重さ。
上を見ると、頭にぶつけられた鞄ごしに仁王の銀色の髪が覗いている。
「誰が嫌がらせじゃ」
「遅いぜ仁王。柳生やつれちまっただろぃ」
「大体ピークは過ぎてしまいましたよ、仁王くん・・・」
柳生はぐったりしながらも立ち上がる。
今から入れ替わりに行くってことだろう。
仁王も面倒そうに鞄を置くと、柳生と一緒に歩き出した。
俺も部室に置いてあるお菓子が食べたくなったから、付いて行く事にする。
ほんの気まぐれ。
「で、本命からはもう貰うたんか?」
「本命・・・?」
「仁王くん!本命なんて・・・!」
「なんじゃ。本命おらんのか?え?」
「・・・当たり前です」
そう言って眼鏡をあげる柳生。顔は真っ赤。ははーん。これはいるな。本命!
だって仁王もニヤニヤしてるし!これは決まりだろぃ!
にしても柳生に好きな女がいたなんて。驚きだぜ。
・・・やっぱり”清らかな女子”なんだろうか・・・そんな女いたか?
俺が考えあぐねているうちに、入れ替わりは終了したらしい。
いつも思うけど、終わった直後は喋り方が本人そのままだから仁王が敬語だったり、柳生がいやに乱暴だったりして気持ち悪い。
「仁王くん、くれぐれも変なことはしないでくださいね」
「そっちこそ、うまくやりんしゃい」
仁王に寄ってくる女とかも、柳生はうまくあしらったりしてるのだろうか。
女にキザな台詞をはく柳生を想像して少し笑った。
「おーモテてんじゃねーか、柳生」
「ふん。ジャッカルは何も知らねーんだな!」
「何だよ?」
ジャッカルは二人が入れ替わってることに気付いていない。
俺は自分だけが知ってるってことが嬉しくてニヤニヤして仁王扮する柳生を見ていた。
「あのっ、柳生くん!」
あ。隣のクラスのだ。
何の気なしに見ていた。は去年同じクラスで結構仲良いし、俺の誕生日にもプレゼントくれた。
アイツ柳生のファンだったのかよ。俺に言えばいいのに。・・・あれ。
が現れた瞬間、仁王の表情が変わった。
俺は確信した。
柳生が好きな女は、絶対だ!!!
仁王とはケンカ友達だから(出身一緒なんだとよ。どこなのかは不明)仁王本人がを好きってのはない!・・・と思う。
だから、柳生のために、仁王が何かやらかすんだ!そうに違いない!
何か面白いことが起きる。
そう思うと俺はワクワクして、二人から目を離せなくなった。
「あっ・・・さん。こんにちは」
「こんにちは、柳生くん。誕生日、おめでとう!」
そう言って差し出す正方形の箱。綺麗なラッピング。
おい、俺のときとはずいぶん態度が違うじゃねーかよ!(「丸井これあげる」しか言ってくれなかったし!しかもリボンすらかけてない箱)
「これを・・・私に?」
「うんっ!気に入ってくれるか、わかんないんだけど・・・」
「貴方からこのような物をいただけるとは、願ってもみませんでした・・・ありがとうございます。嬉しいです」
そう言うと、仁王はの頭に手を伸ばして優しく撫でた。
はと言えば顔を赤くして大人しく撫でられてる。
やっぱり俺とはずいぶん対応が!(前に撫でようとしたら「セットが乱れる」って怒られた!)
「あっ・・・!申し訳ありません・・・つい、嬉しくて・・・」
「あ、いえ、その・・・喜んでもらえてわたしも、嬉しい」
なんだよなんだよいい感じじゃん。
と仁王。柳生じゃねーぞ。仁王だからな。
でもに今バラしたら多分(っていうか絶対)仁王がタコ殴りにされるから言わねー。俺って優しい。
チャイムが鳴って、は名残惜しそうに自分の教室に戻って行った。
「おい柳生。柳生ってが好きなんだろ!」
「そうです。柳くんのデータでも、そう出ています」
「でもさーなんか、わかりやすすぎね・・・?柳生に後で怒られるぜぃ」
「普段の彼の行動をそっくり真似しただけなので、怒られる筋合いなどありませんよ」
「仁王に聞くけど、アイツ”清らかな女子”だと思う?」
「さんには失礼ですが、全く思いませんね。・・・プリッ」
*
「お疲れ様でした、仁王くん」
「・・・お疲れさん」
さて部活の時間。俺は着替えながら元に戻った仁王と柳生を盗み見た。
柳生は一時間ごとに入れ替わってたから疲れているのか、元気がない。
仁王は女あしらうのうまいから、いつも通り。
紙袋三つ(パンパン!)を床に置いて、仁王は何の気なしに言った。
「柳生、元気なかね」
「・・・そうですか?少々疲れてはいますが、別に」
「にプレゼントもらえたんかの?」
「どっ、どうしてそこでさんが出てくるのですか!まったく仁王くんは意味がわかりませんね、本当に。まったく本当に」
柳生は真っ赤な顔してなぜかベンチに置いておいた俺のラケットを持って、部室のドアに頭をぶつけていた。
・・・動揺しすぎだろぃ。
「柳生」
「なんですか仁王くん。もう部活が始まってしまいます」
あと30分もあるじゃねーかよ。
「俺から、プレゼント渡してなかったのう・・・ほら」
仁王がポンと投げてよこした正方形の箱。丁寧なラッピング。
それはが仁王に渡した、あの箱だった。
「ありがとうございます」
「からのプレゼントが、俺からのプレゼントじゃ」
それを聞いた瞬間、柳生は更に顔を赤くして手に力をこめた。
今すぐ開けたそうな顔してる・・・わかりやすすぎ。
「これはさんが、その、私にと?」
「そうじゃよ。お前さんへのプレゼントじゃ。おめでとさん」
「さんが・・・」
おいおい。何か突っ込めよ!
それはあくまでもからのプレゼントであって、仁王からのプレゼントってのはおかしい。
でも柳生はずっと顔を赤くしてその箱を見つめてる。
「・・・ありがとうございます、仁王くん」
おい!礼まで言うのかよ!
・・・いや、面倒くさいから、何も言わないでおく。
「礼には及ばんよ」
しかも仁王まで、いやに偉そうにしている。
柳生は本気で感謝を込めた視線で仁王を見てるし。
「明日、さんにお礼を言います」
「やめときんしゃい。改めて言うのもおかしかろ?」
「じゃあお返しに何かを差し上げます」
「まぁ、それならよかろ」
「そうですか!何にしましょう」
いやに楽しそうにアレはどうかコレはどうかと仁王に尋ねる柳生。
仁王もまんざらでもなさそうにアレがいいコレがいいとアドバイスしている。
誕生日プレゼントのお返しなんて、あんまり聞いた事ねーぞ。
それもいっぱいもらったくせに一人だけ!
しかも柳生、さっきはあんなにの事好きじゃないフリしてたのに、なんだよその変わりよう。
・・・コイツら、頭良さそうに見えて二人してバカなのかもしれない。
「では無難に下着にしようと思います」
おいコラ、変態紳士!どこが無難なんだよ!
(20111030)遅れました、誕生日おめでとう紳士!