私の恋人は、すぐに行方がわからなくなります。


「柳生、知らんか」
「知りません」
「・・・お前、本当にの彼氏か」
「一応」


本から目も離さずに言うと、頭上から仁王くんのため息が聞こえました。
諦めたらしく、だるそうに去っていく仁王くん。
それを見送り、真田が呟きます。


「常々思っていたが、は自由すぎるな」























「柳生くんっ!」
「おや、こんにちは」


中庭で本を読んでいると、どこから現れたのかさんが本を押し下げ、顔を覗かせました。
にっこりと笑うと、私にキスを落とします。


「こんにちは、柳生くん!」
「・・・本当に自由ですね、貴方。ここは学校ですよ」
「わかってるけど・・・ダメ?」


不安げに下がる眉。
見上げる瞳にちらつく涙。


「・・・ダメ、じゃありません」
「よかったー!」


さんといると、自分で自分が情けなくなります・・・。
俯くわたしの頬に、無遠慮に柔らかい唇を押し付け彼女は笑う。


「柳生くん、大好き」
「私も好きですよ」
「嬉しいな」


さんは私と本の間に体を潜り込ませ、膝の上にちょこんと座りました。


「・・・あの、座るのは良いのですが」
「ん?」
「反対側をお向きなさい・・・!」


彼女は何故か、私の膝に座るというより跨り、じーっと私の顔を見つめていました。
私も男なのです・・・!と、私は一人で焦りますが、彼女は何処吹く風。


「だってあっち向いたら柳生くんの顔が見れないし・・・」
「そんなもの、いつだって見れるでしょう!」
「今見たいの。ダメ?」
「・・・貴方、わかっていてやっていますね」
「何が?」


私が、その「ダメ?」に弱いと!
さんはにんまりと笑う。まったく恐ろしい方です!


「もう何も言いません。好きになさい」
「はーい。んー」
「キスはもうダメです!」


突き出す唇を手で押さえつけると、彼女は反抗的な目で私を見上げました。
もう騙されません!と、そっぽを向く私の視界に入ろうと、彼女は大きく首を傾げます。


「どうしても?」
「どうしても」
「ケチ!したいの!」
「いけません!」


「したいの、ねぇ・・・いつからそんなやらしー子になったんじゃ、


そっぽを向いたその先に、見慣れただるそうな表情がありました。
仁王くんは私の隣に座ると、ぽんぽんと自分の膝を叩きます。


ー。そーれ、おいで」
「・・・さんは犬ではありません」
「確かにどっちかっちゅーと猫じゃ」
「そうではなくて!」


さんをペット扱いしないで頂きたいのです!
一人で憤慨するのもバカらしい・・・さんは「わーい!」と仁王くんの膝に移ろうとしています。


「何してるんですか!」
「だって・・・柳生くん、甘えさせてくれないし」
「仁王くんでもいいのですか!」
「本当は柳生くんがいいけど・・・仕方ないよ、ダメって言われちゃ」


しょんぼりと眉を下げるさん。
仁王くんは横から手を伸ばして「おお、可哀想にのう」とわざとらしく頭を撫でます。
そして自分の方へと抱き寄せようとしている。
私は奪われまいとさんのウエストを強く抱き寄せ、ため息をつきました。


「・・・わかりました。甘えて下さい、存分に」


負けました。
さんは今度は犬のように「わぁいっ!」とすり寄ってきます。


「柳生、ニヤついとる。やらしーのう」
「やめて下さいっ!」


左頬は仁王くんに突付かれ、右頬はさんの唇を押し付けられ。
嫌がればいいのか、喜べばいいのか・・・!

唇の右端を吊り上げた、恐らく気味の悪い表情。
また仁王くんが「やらしい笑い方しとる」と頬を抓りにかかりました。


「やめて下さいっ!」
「柳生はむっつりじゃのう」
「柳生くん、好きー。んー」
「頬を抓らないで下さい!ッ・・・さん!そこに触れてはいけません!」
「柳生は我侭じゃね」
「ねー」


どっちがですか!
自由すぎますよ、貴方達・・・!









(20131019)