自分は、ずるくて最悪な生き物だと思っていた。
でも、計算高いのなんて、他の女の人だって一緒だよ。


「柳くん」
「いい、蓮二で」


蓮二くん、はモテるだろうし、それにあの性格だし、わたしの目的くらいわかっていると思った。
このコンビニにいたのだって、蓮二くんの家から近いから来るかもって淡い期待を抱いていたからだった。
まさか、本当に来るとは思わなかったけど。
しかも、わたしに声を掛けるとも思わなかったけど。
その上、まさか「暇なら付いて来るか」なんて言ってもらえるとも思ってなかった。


「弦一郎のクラスのだな」
「うん」
「家はこの辺りか?」
「ううん、あっち。蓮二くん、どこ行くの?」
「家に帰る」


家に入れてもらえるのかな。
緊張して、きゅ、と手を握り締めると、その上から蓮二くんが手を握ってきた。
驚いて顔を上げると、フッと微笑まれた。


「そう不安そうな顔をするな」
「・・・う、ん」
「獲って食おうというワケじゃない」
「そうなの?」
「食ってほしいなら要望にはなるべく応えよう」


この人は遊び慣れてるんじゃないだろうか。
少なくとも蓮二くんが好きでひょこひょこ付いてきた身としてはショックだった。
いつ遊んでるんだろう、この人。
朝から晩まで忙しそうだけど、案外そうでもないのかな・・・。


「冗談だ、そう悩むな」
「蓮二くんは人をからかうのが好き?」
「そうだな、お前は反応が面白いからな」


突然屈んで、耳元でぽつりと呟いた。

―――つい、意地悪をしたくなる。

驚いてびくんと肩を揺らすと、低い笑い声が聞こえる。
・・・こんなだからモテるんだ、この人。
耳を押さえて、多分真っ赤であろう顔のまま睨み上げた。


「顔が赤いな」
「蓮二くん、たらしなんだ・・・」
「心外だな」


言いつつも、フフ、と満足げに笑う。
色っぽい人だなぁ。見習いたいくらい。
蓮二くんの手元でカサッと鳴ったコンビニの袋が、本当に蓮二くんに似合ってなくて、そんなところに何故かキュンとした。










「柳蓮二。趣味は読書かな・・・書道もか」
「・・・知ってるよ、それくらい」
「何故だ」


口を滑らせ、ハッとした。
さっき買ってきたペットボトルを開けて、とくとくとわたしの前のコップにジュースを注ぐと、柳くんは笑う。


「だって・・・真田のところに習いに来てたから、書道」
「ほう、上手い返しだ」
「いきなりどうしたの?」
「一応初対面だ。自己紹介くらいするだろう」


先に手まで握っておいて、おかしな話だ。
思いつつも、ジュースに手を付ける前に、倣う。


、趣味は・・・」
「ああ、お前のは結構。充分知っているのでな」
「えっ!蓮二くんって・・・林家ペーみたい」
「・・・もっと上手い例えがあるだろう」
「じゃあ、倉田くんの誕生日知ってる?」
「知るか、誰だそれは」


ぷい、とそっぽを向いて蓮二くんは言う。
もしかして女の子のデータしか集めてないんじゃあ・・・。
じと、と睨みつけるように見ていると、心を読んでしまったのか蓮二くんはくすりと笑う。


「別に片っ端からデータを集めているわけではない。お前のはたまたま知っていた」
「え、どうして・・・」
「まったく、呆れるな。俺に手紙をくれた事があっただろう」
「・・・あったっけ」
「・・・本気か」


本気で覚えていない。
何回か書いてはいるけど、渡した事はないと思っていた。
まさか知らないうちに頭がぷっつんして一番やばい内容のものでも渡したんじゃあ・・・。


「何て書いてあった?」
「頑張って下さいだとか、当たり障りのない事だ」
「・・・よくわたしのだって覚えてたね、いっぱい手紙もらうんでしょ?」
「あまりに字が汚いので覚えていたまでだ」


この人、全然優しくない!
なんか目測誤ったかも・・・もっと柳生くんとか、あの辺りの人を好きになれば良かった。


「教えてやろうか」
「わ、」


後ろからふわりと抱き締められた。
ドキドキしていると、手をぎゅっと握られ、何か押し込まれた。
・・・ボールペン?
机の上に綺麗な動作で紙を置くと、蓮二くんはわたしの手を握ったまま字を書き始める。


「迷惑か」
「ううん・・・実は字汚いの気にしてて」
「では俺が先生になってやろう」


たまに頬に触れる蓮二くんの髪は、くすぐったいくらいにサラサラだった。
不思議な気分・・・でも心臓がうるさいのは相変わらず。






(20111126)