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俺のクラスには一人、少し浮いた存在の女がいる。
誰ともつるまず、人とも話さず、授業にもあまり顔を出さず、受けても寝ているような。
なのに成績優秀だから、羨ましいなんてものじゃない。そしてそんな女・・・が久々に登校したと思ったら、俺と日直だなんて。
嬉しいのやら、悲しいのやら。なんとも複雑な気分だ。


「あ、悪い」
「・・・・・・・・・・」


俺が黒板を消していると、何も言わずにもそれを手伝う。
お礼を言っても彼女はそれに対して何の反応も見せない。まぁいいか、と特に気にもせず黒板消しを持つ手を動かした。
そしてそれを終えたはやっぱり何も言わずにスタスタと黒板を離れた。
その様子を見ていると、教室の隅に置いてあるゴミ箱を持ちそのまま教室を出て行った。


「おい、それは俺が行くからは日誌書いてくれねぇか」
「・・・・・・・・・」
「それ、結構重いだろ?」
「・・・・・じゃあ、はい」


そう言って呼び止めた俺に近づいて、ゴミ箱を渡してきた。
それを受け取り、日誌頼むな、と告げるとはこくんと頷いた。ゴミ箱を運びながら俺は一人で色々と考えていた。ってなんか浮いてるけど、別に悪いやつじゃなさそうだよな。口下手なのか?
あんま喋らねぇのもそのせいなのか?ごめんとかありがとうとか、そういうこと言うのが恥ずかしいのか?と、本人からすれば余計なお世話なことをひたすら考えていた。
そしてゴミ処理場にゴミを捨て、教室へ戻った。


「ん?」


そこには机に顔を伏せているの姿があった。
ゴミ箱を所定の位置に戻してに近付いてみると、どうやら眠っているようだった。手元に置いてある日誌を見ると、簡単ではあるがきちんと書かれている。
日誌を職員室へ持って行きたいが、寝ているを放っておくことも出来ない。風邪でも引いたら大変だ。
だからと言って、気持ちよさそうに寝ているのを起こすのも・・・。けれど起きるまで待っているわけにもいかない。何せ部活がある。


「・・・仕方ねぇな」


俺は着ていたブレザーをの肩に掛け、日誌と鞄を片手に教室を後にした。





「これ」
「ん?」


次の日、朝一では短くそう言いながら俺に紙袋を押し付ける。
何だ?と思い、中を覗くとそれは俺のブレザーだった。


「あぁ、これか」
「・・・・・」


何か言おうと口を開いたり閉じたりするを見て、俺は笑う。


「いいぜ、俺が勝手にやったことだからな」
「・・・・・・うん」


きっとお礼が言いたいんだろうな、と思う。
言葉にしなくても、気持ちはちゃんと伝わってくるのはきっとからそういう雰囲気が出ているためだと思った。


「・・・・・・ていうか、さ」
「ん?」
「何で?・・・私にこんなことしたって何の得もないのに」


得って何だよ。俺は言う「得」の意味が分からず、首を傾げる。


「損とか得とかはよく分かんねぇけど・・・」
「じゃあ、」
「何となく、気になるんだよな。のこと」


俺がそういうと、は顔を真っ赤にした。
え、俺なんか変なこと言ったっけ?と自分の発言を振り返ってみた。

・・・・・・・・・・・・・・。


「・・・!いや、気になるって言っても、そういう意味じゃ・・・いや、何だ、その・・・」


やっと自分の言ったことに気付いた俺は、大した言い訳も出来ずにそのまま口を噤む。
も何も言わないまま、ずっとそこに立ち尽くしていた。
妙な雰囲気の俺達にクラスの連中も気になるようで、ちらちらとこちらを伺っている。


「そう!友達になりたいなって・・・その、思ってたっつーか・・・」


苦し紛れにそう言ったのはいいが、不自然すぎるだろと言った本人が思う。
もうどう言い訳しても無駄だと確信して、がくりと肩を落とした。にどう思われたんだろう・・・変なヤツと思われたに違いない。絶対そうだ。


「・・・・・・ホントに?」
「え?」


しかし目の前のは、目をキラキラと輝かせて俺を見ていた。


「ホントに私と友達になってくれるの?」
「・・・・・・あ、あぁ・・・が嫌じゃねぇんなら・・・」


そうするとはよほど嬉しいらしく、今まで見せたことのない顔で笑った。

ドキッ

それを見て俺の胸は高鳴った。そのギャップはずるいだろ・・・。
赤くなる顔を誤魔化すように視線を泳がせると、はぽつりと言った。


「ありがとう」


その一言に泳いでいた視線は、元の位置に戻る。
ぽかんとする俺を見て、は居た堪れなくなったようで足早に自分の席へ戻っていった。その後姿を見つめながら、俺はくすりと笑う。


「友達、か・・・」


そう呟いて、返してもらったばかりのブレザーに手を通した。






(20091103)