あれ。珍しいのから電話が来た・・・。


「はいはーい。です」
“俺俺。丸井だけど”
「うん、どうしたの?」


休みの日に遊びに誘うようなヤツじゃなかったはずなのに・・・。
まさかケーキバイキング?それとも食べ放題?
いや、どっちも行きたくなったら桑原を誘うはず。
女誘ってもあんま食わないから奢らせられないとか言ってたし・・・。


“丁度良かった!俺ん家、来ねぇ?”
「えっ・・・なんで?」
“遊びに決まってんだろぃ!どうせ暇なんだろ?”
「うーん、暇だけど・・・」
“じゃ、決まり!すぐ来いよな!”
「あ!ちょっ・・・!!」


返事も待たずに、電話は切れてしまった。
・・・ま。いいか。

手土産に、家にあったクッキーを手提げ袋に下げて、わたしは家を出た。











「・・・物凄く不吉な予感がする」
「何でだよ」
「桑原がいるから!」


不満げにソファでくつろいでいるのは、同じクラスのジャッカル桑原!
丸井に呼ばれた。行ってみると桑原もいた。これほど不吉な事はない!


「んじゃ、あとシクヨロー」
「ちょーっと待って!お客を置いてどこ行く気?」
「デート」
「ばっ、バカじゃないの!」


こいつー!最初から留守番と子守を、わたし達に押し付けるつもりで・・・!
白熱するわたしの横で、桑原は丸井の弟×2と遊んでいた。
押し付けられる事に慣れているに違いない・・・!気の毒に・・・。
と思っていると、ぐいぐいとスカートを引っ張られた。


「ねーちゃんも遊ぼうぜー!」
「や・だ!」
「・・・お前、大人げねーぞ」


というか、丸井に似ているというだけで腹が立ってきた!
わたしは本物の丸井の胸倉を掴み上げて、揺すった。


「お前、胸倉掴むとかマジで女?」
「うるさい。どうしてわたしも呼ぶの。桑原一人で充分でしょ、あの様子じゃ!」


すっごい懐いてるし!
楽しそうに飛行機ごっことかしてるし!


「だってよ、今日はジャッカル来るの渋ったから」
「で?なんでわたしまで」
「お前も来るって言ったら、じゃあすぐ行くってジャッカルが、」
「ちょっと待てって!ブン太!余計な事言うんじゃねえ!」


あ、桑原が丸井に反抗した。珍しい。
じーっと見ていると、桑原は焦った様子で丸井の背中をぐいぐいと押し出した。


「早く行って来いよ。待たせてんだろ?」
「じゃ、遠慮なく。も頼んだぜぃ」
「はいはい、いってらっしゃい」


で、どうしよう・・・くるりと振り向くと、丸井弟×2は桑原の服の裾を掴んで指を咥えてこっちを見ていた。
桑原もこっちを見ていた。


「・・・で、どうする?」
「いや、遊んでやれば大人しいからよ・・・遊ぶか?」
「えーと、この子ら名前は?こっちビン太で、こっちボン太でいい?」
「・・・お前なぁ・・・」

「ままごと」


ちっさい方の弟が急に、ぽつりと呟いた。
そして、わたしの方を指差す。


「お母さん」
「え?わたし?お母さん役、するの?」


こくりと頷いて、今度は桑原を指差した。


「お父さん」
「俺が父ちゃんな。わかった」


やっぱり桑原は慣れている。
いつも遊んでいるであろう部屋へと、大きい方の弟に引っ張られながら、わたしは桑原に話しかけた。


「ねえねえ。じゃあ、わたしと桑原は夫婦なんだね」
「ぶっ・・・!」
「え、何?桑原もしかして、ちょっと期待した?」
「してねえよ!」
「あー、照れてるんでしょー」
「やめろっての!」


背伸びしてつんつんと坊主頭を突付くと、少し赤くなった気がした。
桑原で遊ぶ方が面白い、などと思ってしまったのを見抜いたんだろう。
桑原は頭を抑えながら、じと目でこっちを睨んでいた。


「あ、怒った?」
「怒ってねえよ」
「・・・ほんとに怒っちゃったの?」


ぼそりと呟く桑原は、珍しく本当に機嫌が悪そうだった。
わたしは、温厚な桑原を怒らせるという大仕事をやってのけてしまったと実感して、物凄くショックを受けた。
どんどん目に涙が浮かんでくる。


「・・・ずっ」
「げっ・・・お前、な、泣いてんのかよ!?」
「泣いてない・・・!」
「泣いてんじゃねえか!」
「違うの・・・これは目にゴミが、」
「見え透いた嘘吐くなよ!」


桑原は慌てふためいて、少ししゃがみこんでわたしの目じりを優しく拭った。
そしておろおろしたまま、不器用そうに、でも丁寧に頭を撫でてくれた。


「ジャッカル、おんな泣かしてんじゃねーよ!」
「にーちゃんにいいつけるぞー、ふーふげんかしたってー」
「お前らは、あっち行って遊んでろ!」


ぴしゃりと言い放つと、桑原はこっちに視線を向けた。
ビン太とボン太は不満げな顔で遊び部屋へと入っていく。
じーっと見ていると、桑原は頭をぽりぽりと掻いて目線を大きく逸らした。


「悪ィ・・・別に怒ってねえからよ」
「・・・ほんと?」
「ああ、だから泣くなよ。どうしていいかわからなくなるだろ」
「じゃあ、わたしのお婿さんになるのが嫌なわけじゃない?」
「なっ!だ、だからお前は、どうしてそういう事を・・・!」


この話は終わり!とばかりに、桑原は遊び部屋のドアノブに手をかけた。
わたしがその手を上から握ると、桑原はすっごく驚いた様子で振り返った。


「期待したのは、わたしだけなの?」
「は?お前、何言って・・・」
「そんなバカを見るような言い方しないでよー!」
「してねえよ!あっ、また泣くのかよ、おい!」
「桑原のわからずや!わたしは、ごっこ遊びでも桑原と夫婦で嬉しかったのに!」
「・・・はぁ!?」


あ!またバカか、コイツっていう顔した!
さっきと違って、勝手にぼろぼろと涙が零れてくる。
桑原はすっごい焦りながら自分のTシャツを引っ張って、わたしの涙を拭いてくれた。


「り、離婚だー・・・!桑原なんかぁ・・・」
「意味わかんねえ事言うなっっての。つーか、それ冗談だったら俺泣くからな」
「・・・待って。なんで桑原が泣くの」
「お前はどこまで鈍感なら気が済むんだよ」
「ひ、ひどい!それは桑原の方だよ!わたしずっと桑原の事好きなのに、全然見向きもしなかった!」


わあわあ泣くわたしを見て桑原が小さく「面倒だな」と呟いた。
ひどい、そんなあからさまに!
と、桑原の胸を叩こうとした手はパシッと掴まれてしまった。


「それはこっちの台詞」
「え。それは何、桑原・・・どういう・・・え?ちゅーする?」
「お前な・・・告白くらいさせろっ・・・!?」


わたしは桑原のTシャツを無理矢理引っ張って、桑原にキスをした。
ゆっくりと目を開けると、呆然とした表情の桑原が目に入る。


「桑原、大好き」
「・・・お、お前・・・」
「わたしと付き合ってほしいな」
「その・・・いいのかよ、俺で」
「桑原じゃなきゃダメなの!」


ぎゅっと手を握った瞬間、玄関のドアがすごい音を立てて開いた。
ふと視線を向けると、そこにはいかにも機嫌が悪そうな丸井が立っていた。


「あ。おかえり、丸井」
「早かったじゃねえか」
「おめーら・・・わかってて言ってんだろぃ。フラれたんだっつーの!」


えええぇ・・・慰めの言葉も見つからないわたし達に、丸井はフンッと鼻を鳴らして横を通り過ぎようとした。
でも、ふっと足が止まる。
視線を辿ると、繋ぎっぱなしだったわたし達の手へと行き着いた。
はっと気付いて離してみるも、もう遅い。
わたしは自分の顔が今真っ赤だって事を自覚していたし、色黒のジャッカルですら赤いのがわかる。


「・・・おめーら・・・人がフラれてる時に、人の家でやらしー事してんじゃねえよ!バカじゃねえの!」
「しっ、してないよ!」
「絶対ぇ認めねえ。ジャッカル、俺が立ち直るまで、お前彼女作んなよ」
「んなめちゃくちゃな!」
「ニヤけてんじゃねーよ!」


当り散らす丸井を慰める桑原。
ああ、これがわたしの彼氏なのかぁ・・・と残念な顔をしてみるけれど、そんな困った顔も大好きなんだ。
今度丸井のように困らせてみようかな、と考えるわたしの口角はにやりと上がっていた。






(20111030)フライングです。誕生日おめでとう!